植物個体におけるペプチド性増殖因子PSKの生理機能解析
岡添 勇 指導教官 鎌田 博
【目的】
一般に植物細胞を低細胞密度で培養すると、植物ホルモンを添加しても細胞分裂
は
起こらない。しかし、一度高細胞密度で培養した後の培地を加えると細胞分裂が起
こ
ることから、この培地中に何らかの植物細胞増殖因子が存在すると考えられてきた
。
1996年にアスパラガス葉肉細胞の培地中から、ペプチド性の細胞増殖因子で
あ
る Phytosulfokine(PSK)が単離され、その構造が決定された。その後、PSKは
アスパラガスばかりでなく、ニンジン、シロイヌナズナ、イネなどの細胞培養培地
か
らも検出され、高等植物に普遍的な細胞増殖因子の一つであることが示唆されてい
る。
特にイネについてはPSKの前駆体遺伝子であるOsPSKもすでに単離されてい
る。しか
しながら、PSKの植物個体内での生理機能についてはこれまで全くわかっていない
。
そこで私は、このOsPSKを過剰発現および発現抑制したイネ形質転換体作出
し、植物
個体内におけるPSKの生理機能の解析を試みた。
【方法】
形質転換のために、植物において構成的な発現を示す、カリフラワーモザイクウ
ィ
ルス35Sプロモーターの下流にOsPSKの全長cDNAをセンス、アンチセンス
方向に
導入したプラスミド (pIG121: Hmを使用 )を作成した。作製したプラスミドおよび
OsPSK が導入されていないコントロールプラスミド(pIG121: Hm)をアグ
ロバクテ
リウム(Agrobacterium tumefaciens)EHA101およびLBA4404
に組み込
み、イネ(品種:日本晴)の胚盤由来のカルスに感染させることにより、形質転換
体
の作出を行った。
【結果・考察】
センス・アンチセンス方向にOsPSKが組み込まれたプラスミドをそれ
ぞれ作製し、
サザンハイブリダイゼーションによってアグロバクテリウム菌へのOsPSKの
導入を
確認した。
センス・アンチセンス方向にOsPSKを導入したアグロバクテリウムおよび
OsPSK
の入っていないpIG121: Hmを導入したアグロバクテリウムを用いた感染実験は
、
各々約200個のイネ胚盤由来カルスに対して行い、形質転換体の作出を試みてい
る。
形質転換体が取れ次第、PSKの植物個体内での生理機能を調べてゆく予定である
。