環境汚染物質に対する生体応答
ゼブラ フィッシュを用いた異物代謝に働く遺伝子群の解析


長内 仁    指導教官  山本 雅之   責任教官 坂本 和一

背景と目的
近年、発ガン・催奇形・内分泌撹乱などの要因となる微 量化学物質による環境汚染が、社会問題になってきた。ダイオキシンやPCBの毒性発 現は、受容体型転写因子AhRの異物代謝酵素群遺伝子の転写活性化によることが明ら かになってきた。AhRは通常細胞質に存在するが、ダイオキシン等のリガンドと結合 すると核移行及び他の転写因子Arntとヘテロ二量体形成を行い、シトクローム P4501A1 (CYP1A1)等の異物代謝酵素群遺伝子の上流にあるXRE配列に結合し、これら の遺伝子の転写を活性化する(Fig.1)。日本人の場合、ヒトへのダイオキシンの侵入 経路は魚類を介したものが最も多いと考えられているが、魚類における毒物応答機構 はほとんどわかっていない。本研究では魚類における異物代謝制御の転写調節機構の 解明を目的に、ゼブラフィッシュAhRとArnt cDNA及びCYP1A1遺伝子の単離同定とその 解析を行うことにした。ゼブラフィッシュは様々な分子生物学的手法が適用できる上 、胚が透明で生きたまま観察できる利点があるため、魚類における転写調節機構を調 べるのに格好の材料となると考えられる。

方法 
ゼブラフィッシュ AhR及びArntのcDNAの単離はPCR法によって得た部分的cDNA断片をプローブに用いた、 1ヶ月齢cDNAライブラリーのスクリーニングにより行った。得られたクローンの塩基 配列決定とデータベースを用いた他生物種との比較解析により、遺伝子を同定した。 さらにこれらのクローンからDIG標識のアンチセンスRNAを作製し、in situ hybridization法によりゼブラフィッシュ胚発生期における遺伝子発現解析を行った 。一方CYP1A1のゲノムDNAはdegenerate PCR法により得た部分的cDNA断片をプローブ にして、ゲノム DNAライブラリーのスクリーニングを行い、上記と同様に単離同定し た。

結果と考察
cDNAライブラリー約200万プラークから AhR 及びArnt のポジティブクローンを2及び 12種単離した。制限酵素切断断片をサ ブクローン化して塩基配列決定を行った結果、マウスAhR及びArnt2と 類似性がある遺伝子が2種同定でき、ahr1及びarnt2と名付けた。 arnt2に関しては完全長のcDNAを得たが、ahr1に関しては全長が単離して おらず現在さらに解析中である。ゼブラフィッシュ初期胚を用いた発現解析の結果、 両遺伝子は共に1日胚の頭部と5日胚の内臓原基での発現が観察された(Fig.2)。こ のことはこれらの遺伝子が内臓における外来異物応答能の獲得に加え、頭部及び内臓 形成に関与することを示唆するが、今後さらに詳細な発現部位の解析が必要であろう 。 一方、CYP1A1の遺伝子に関しても同様にポジティブクローンを1種単離し、 cyp1a1と名付けた。遺伝子領域全長を含んだこのクローンの解析により、7エク ソン及び6イントロンからなる構造が脊椎動物CYP1A1遺伝子間で保存されていること が示された。現在同遺伝子のプロモーター及びXRE配列を同定すべく、上流域の解析 を行っている。


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