海保 英子 指導・責任教官:坂本 和一
1.はじめに
FGF(Fibroblast Growth Factor; 繊維芽細胞増殖因子)は現在までに22種類のメンバーが発見され た細胞増殖因子ファミリーであり、増殖、発生、形態形成、疾病等、多彩な生命現象に関わっている。 近年、FGFファミリーメンバーが脳神経系に大量に含まれることが明らかになり、脳神経系における機能 が注目されている。 これまで、我々は脳神経系の発生と成熟過程におけるFGFファミリーメンバーの機能を解析するため に、マウスの脳の各発生段階におけるFGF-1〜9とFGFレセプター4種類の遺伝子の発現量の変化を解 析してきた。その結果、各FGFメンバーの時期特異的な発現パターンに関する情報を得ることができ、 それをもとにした機能解析が可能となった。その後、現在までにFGF-11~22がクローニングされた。こ れらはすでに報告されているFGFファミリーのメンバーと構造的特徴を共有しており、一部は脳神経で の発現も報告されていることから、同様に脳神経系での働きが期待される。 そこで、本研究では新規メンバーFGF-10〜22のうち、これまでに塩基配列がデータベース上に報告さ れているFGF-10〜19のマウスの脳の発生・成熟過程における遺伝子の発現量の変化を解析した。2.研究方法 マウスFGF-10〜19(スプライスバリアントが報告されているものについてはそれを含む)の各遺伝子 配列をデータベースより検索し、FGFファミリーのメンバー間の相同性に配慮し、各遺伝子特異的なPCR プライマーペアを設定した。マウス脳のRNAの逆転写産物をもとに、設定したプライマーを用いてPCR により各遺伝子断片を増幅し、これらをクローニングし、増幅産物が目的のFGFメンバーのものである ことを確認した。 次に、マウスの胎児期(受精後 13, 17 日)、新生児期(出生後 1, 3, 5, 7 日)の脳組織、また成体(出 生後 2, 3, 4, 14 週間)の大脳の全RNAの逆転写産物を鋳型にして、設定したプライマーを用いてLight Cycler(キャピラリーPCR)による定量的PCR法により、新規FGFファミリー遺伝子の時間経過に伴う 発現量の変化を解析した。
3.結果及び考察
FGF-10, 12a, 12b, 13, 14b, 18遺伝子の部分 cDNAを取得できた。それらのメンバーが、 脳神経系の発生・成熟過程を通じて発現している ことがわかった。特にFGF-12bは誕生3週間後 から1週間の間に急激な発現量の増加が見られた。 (Fig. 1.) この時期は記憶を司る海馬の発達時期に あたり、FGF-12bが海馬の形成に何らかの影響を 与えている可能性を示唆する。また、FGF-18は 受精13日後に特に大量に発現していることがわか った。FGF-18は、発生期に肢芽誘導や中脳形成な どの現象に関与しているFGF-8とアミノ酸レベル での相同性が高いことからも、神経系の発生段階に おけるその重要性が示唆される。 FGF-11, 14a, 15, 16, 17, 19に関しては今回設定し たプライマーペアはLight Cyclerによる定量には適 切ではないことが分かった。再度プライマーの設定 を行い、同様の手法により解析を進めていく予定で ある。 |
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