リボザイムの基質認識に関する研究
笠井康弘 指導教官・責任教官: 多比良 和誠
RNA鎖の切断などの触媒活性を持つRNAとして発見されたリボザイムは、
抗ウイルス剤及び特定遺伝子の発現阻害剤などに期待されている。
中でもハンマーヘッド型リボザイムは現在もっとも研究されているリボザイムであるが、
その反応機構についてはまだ不明な点が残されており、
リボザイムの基質認識部位が切断反応に与える影響や、
切断活性を示すのに必須とされる Mg2+ の作用機構などの解析が十分ではない。
触媒反応において、タンパク質酵素は基質との複合体を形成する際、
基質結合エネルギーが酵素−基質複合体に”ひずみ”を生じさせ、遷移状態に近づかせ、
反応を促進させることが知られている。
リボザイムでも触媒反応の際、
基質結合エネルギーが同様の切断反応活性化に利用されている可能性がある。
そこで、本研究では基質RNAを短くし形成される塩基対の数を少なくすると
切断反応が妨げられること( kcat の低下)を実験的に示すとともに、
短い基質を競合阻害剤として用い、反応速度論的解析を行うことで、
切断反応におけるリボザイムと競合阻害剤との平衡定数( KI )を求め、
リボザイム−基質複合体の結合定数をより詳細に解析した。
これまで短い基質を用いた結合定数の研究はゲルシフトなどの方法によって解析されてきたが、
それらの方法では遷移状態における基質の結合能を明らかにすることは不可能であった。
我々は、短い基質を競合阻害剤として用い、
その阻害定数を詳細に解析することによって、遷移状態における結合定数を解析することを
可能とした。
ハンマーヘッド型リボザイムの基質認識部位は Stem I と Stem III の二つの領域からなっている。
今回の実験結果の解析により、Stem I を形成する塩基対の数を少なくするにつれて、結合定数
KM
の値が大きくなり、反応中間体の安定性が下がること、一方で、Stem III は形成する塩基対の数を
変化させても、 KM の値に Stem I ほどの大きな影響は見られないことが明
らかとなった。
このことからStem III の結合エネルギーは基質と酵素の結合にあまり重要ではなく、また
この結合エネルギーが遷移状態の反応中間体の形成に使われているのではないかという示唆が
得られた。
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Yasuhiro Kasai
s960831@ipe.tsukuba.ac.jp