ショウジョウバエ脳発生に関与する   新規遺伝子のスクリーニング

  河内 浩         指導教官 古久保―徳永 克男

【導入・目的】
 モデル動物における最近の研究から、動物の脳の基本的な発生メカニズムは種を越 えて保存されていることが示唆
されている。研究の一例として、ショウジョウバエ、ヒト、線虫、ホヤなどに共通し て発見されている頭部ホメオ
ボックス遺伝子otd/Otxの解析が挙げられる。この遺伝子は、初期発生におい て中枢神経系の前端で発現しており、
頭部-脳神経発生の制御を行っていると考えられている。
 しかし、脳発生は非常に複雑な過程であり、現在では嗅覚情報系(触角葉〈昆虫〉 /嗅球〈脊椎動物〉)、記憶学
習系(キノコ体〈昆虫〉/海馬〈脊椎動物〉)などの中枢神経系の下部構造における 共通性が問題になってきてい
る。このことを解決するには、脳のさらなる生理学的・発生学的な研究が必要である 。今回は、脳発生に関与する新
たな遺伝子を発見し、上記の問題の解決をはかるために、GAL4エンハンサートラップ 法を用いたスクリーニング、
及びインターネット上のデータベースの解析を行った。

【方法】 用いた実験動物:ショウジョウバエ( Drosophila melanogaster
<1次スクリーニング> GAL4エンハンサートラップ系統(酵母の転写因子である GAL4の遺伝子をゲノム内にラン
ダムに挿入したもの)の雄と、UAS-lacZ系統(GAL4の結合によってその下流の遺伝子 発現を活性化させる酵母のシ
ス因子UASに、β―ガラクトシダーゼの遺伝子lacZをつないで、ゲノム内に挿入した もの)の雌を交配させて採卵
し、脳形成の始まる胚発生中後期で固定、X-galにて染色し、微分干渉顕微鏡を用い て発現パターンを観察した。こ
の中から、以下の特徴的なパターンを示す系統をスクリーニングした。
1、胚期脳で局所的に発現が見られるもの(特にキノコ体、または触角葉で発現して いると思われるもの)
2、胚期脳で全体的に発現が見られるもの
3、分節遺伝子様の発現パターンを示すもの

<データベース解析> FlyView(http://flyview.uni-muenster.de/) 及びBerkeley Drosophila Genome Project
(http://www.fruitfly.org/)データベースから胚期脳で発現している配列を持つク ローンのデータをダウンロード
し、BLAST、FASTAによる相同性検索を行った。

【結果・考察・展開】
<1次スクリーニング> 現在、研究室にて飼育している約800系統のGAL4エンハン サートラップ系統の内、発現パ
ターンの観察が終了したものが71系統、その内4系統において上記1〜3の特徴的な 発現パターンが観察された。今
後は1次スクリーニングを継続すると共に、lacZ及びX-galによる染色の解像度の低 さを補うため、1次スクリーニン
グした系統の発現パターンを抗体染色法やin situ hybridization法によって さらに詳細に解析して行く予定である。
<データベース解析> 上記の条件に適するクローンのデータが、FlyViewには411系 統、Berkeley Drosophila
Genome Projectには196系統存在している。現在までに相同性検索を行った39系統の 内、12の系統が既知の遺伝子を
もつものであった。残りの27系統は未知の遺伝子をもっている可能性がある。今後も 相同性検索を行っていく予定で
あるが、データベースのその他の活用法については現在検討中である。
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