新規 3

神経回路形成におけるフロアープレートの役割の発生工学的研究

小池　誠一　　　　　　指導教官　桝　正幸　　責任教官　藤井　宏一

1.目的
　神経系の機能は、膨大な数の神経細胞がシナプスを介し複雑な回路網を形成することによって成り立っている。このシナプス結合を正確な相手とつくるためには、発生期の神経系において、神経細胞が軸索を正しい方向へ伸ばしていくことが必要である。このような軸索誘導の過程では、軸索の先端にある成長円錐が、周囲の物質を手がかりとしながら軸索を最終的な標的まで伸長させている考えられている。近年の分子生物学の進歩に伴い、この手がかりとなる因子が、多数同定されつつある。
　軸索誘導に関して、脊椎動物において最もよく調べられているのは、脊髄の神経細胞についてである。胎生期のラット脊髄では、その背側に交連神経細胞が分化してくる。この神経細胞の軸索ははじめ、神経管に沿って伸びるが、途中から神経管の腹側正中部に位置するフロアープレートに向けて直線的に軸索を伸ばす。そして、フロアープレート近くで正中線を交差した後、進路を直角に変えて吻側へ上行することが知られている。近年、この交連神経細胞軸索の腹側への誘導は、フロアープレート細胞から分泌される誘引因子であるネトリンによって、ガイドされていることが明らかになった。しかし、正中線を交差した後、その軸索が直角に進路を変更する点に関しては、ネトリンだけでは説明することが出来ない。そこで、私たちの研究室では、フロアープレートに発現している未知の分子が軸索誘導に関与しているのではないかと考え、フロアープレート特異的に発現している分子を同定し、その機能を明らかにしようと試みている。
　私たちは、今後、発生工学的手法をこれらの遺伝子機能解析の手段の一つとして取り入れようと考えている。なぜなら、トランスジェニックマウスや、ノックアウトマウス作製技術を用いることによって、複雑な神経系の成り立ちについて、個体レベルで遺伝子機能解析が行えるからである。そこで、この研究では、今後の機能解析の実験に先立ち、フロアープレート特異的に遺伝子を発現させると報告されているエンハンサーの発現調節領域が機能することを確認することが目的である。そのために、GF P遺伝子を用いてトランスジェニックマウスを作製し、その発現がフロアープレートに限られることを確かめる。
2.方法
　転写因子であるHNF-3βの発現調節領域のうち、フロアープレート特異的なエンハンサー領域を大阪大学の佐々木先生から頂き、その下流にhsp68 promoter,EGFP遺伝子,polyA signal配列を繋いだ下図のようなベクターを作製した。その後、このベクターをlinearizeし、定法に従いマウス受精卵にインジェクションすることによって、トランスジェニックマウスを作製している。PCRによってトランスジーンを持った個体が同定出来れば、GFPの発現がフロアープレート特異的であるかどうかを確認する。

3.結果と今後の展望
　これまでに、6回インジェクションを行ったが、トランスジーンを持つ個体は得られていない。今後も引き続きインジェクションを行っていく。そしてPCRによってトランスジーンを持つ個体が確かめられたなら、lineを作製するとともに、フロアープレート特異的にGFPが発現しているかどうか確かめたい。
4. 謝辞
　この実験を行うに当たり、ご指導頂いている筑波大学基礎医学系分子発生生物学教室の山本雅之先生、高橋智先生、大崎牧先生を始め、分子発生生物学教室の方々に感謝を申し上げます。

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s960855@ipe.tsukuba.ac.jp

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