アカマツ林におけるアカネズミの行動圏の分布様式

坂本信介 指導教官 斎藤 隆史

<Introduction>   ネズミ類などの小型哺乳類の雌のテリトリー性の機能を論ずる上で最も重要なのは、それが繁殖に関 わるという点であると考えられる。これは雌のテリトリー性の機能についての諸説に共通する基本的 概念である。したがって、テリトリー性(通常、テリトリーは防衛される地域と定義されるが、ネズ ミ類の場合、夜行性であるため、繁殖に伴う行動圏のサイズ、行動圏間のオーバーラップの減少及び 近接個体間距離の増加などによって間接的に評価される)と繁殖サイクルに着目することが重要であ る(Koskela,Mappes&Ylonen 1997)。なぜならテリトリー性の機能に、多大な影響を及ぼすと考 えられる雌のエネルギー要求や仔の保護の必要性は、雌の繁殖サイクルの移行とともに変わることが 示唆されているからである。しかしながら、雌の繁殖サイクルに着目した実験は非常に少ない。  本研究ではこのことをふまえ、日本固有種であるアカネズミ(Apodemus spesiosus)の自然個体 群において、繁殖に伴う雌のテリトリー性が実際に存在し、どのような機能を持つのかを明らかにす ることを最終目的とし、その前段階として、野外での実際の繁殖期、非繁殖期の決定、繁殖状態の同 調性、繁殖サイクルの決定などを調べることを目的とした。また、上述の餌や仔の防衛とも関わり、 雌の空間行動に影響を及ぼす可能性のある樹木の分布を調べ、行動圏の分布と何らかの関係があるか について調べることを目的とした。 <Methods>   1999年6月30日から9月14日まで、10月26日から現在までの2期間、筑波大学農林技術センター 外縁部のアカマツ林内において、生け捕り罠(シャーマントラップ)を用いて、夜間アカネズミを捕 獲した。餌には生落花生を用いた。毛刈りによりマークし、捕獲ポイント、性、体重、成体、幼体な どの区別(毛色と体重による)、繁殖状態(雄は精巣の肥大の有無、雌は乳頭の突出、膣開口の有無 及び体重による)などを記録した上で放した。8月までは早朝放し、9月からは夜間の内に放した。 種の同定は体重と尾率の計測により行った。他種の存在の有無を確認するため餌を変えて(さつまい も、りんご、ひまわりの種子など)捕獲を行った。また、捕獲ポイントから最外殻法を用いて各個体 ごとの行動圏を描いた。これに加え、毎木調査を行い、アカマツを中心に胸高直径10B以上の樹木 についてその位置を計測し、林内の樹木の分布と行動圏の分布とを比較した。 <Results&Discussion>  1.捕獲状況と繁殖期の決定   捕獲個体は幼体も含め全て尾率(100×尾長/頭胴長)が100%以下であり、他種の捕獲はなかっ た。このことから、このアカマツ林内に生息するネズミ類はアカネズミのみであり、実験における アカネズミの幼体とヒメネズミとの混同はないといえる。また、6月30日から9月14日までの捕獲 21個体は全て成体であったが、11月11日からの捕獲においては捕獲9個体の内、5個体が幼体であっ た。雌については、繁殖個体が初めて捕獲されたのは6月30日であり、次に繁殖個体が捕獲された のは8月9日であった。巣立ちまでにおよそ1ヶ月を要することを考慮すると、6月30日に捕獲され た雌の繁殖個体は春の繁殖期の延長個体で、6月半ばから8月半ばまでは非繁殖期である可能性が示 唆される。つまり、雌は年二峰型の繁殖期を持つことが考えられる。雄については6月30日から9月 14日までは継続的に繁殖状態にある個体(以下、繁殖個体とする)が見られた。しかし、11月11 日以降の捕獲において、その精巣の肥大は減衰傾向にあった。また、繁殖状態にない個体はすべて体 重の小さい個体であった。この体重の小さい個体を性成熟への移行個体とみなせば、雄は全体として 同調的に繁殖状態へ移行することが予測される。これは雌との関係から、冬期を除く年一峰型である 可能性が高い。雌については、繁殖個体は6月30日に初めて捕獲されたが、次に繁殖個体が捕獲さ れたのは8月9日であった。その後、継続的に繁殖個体は捕獲されたが、体重の大きい個体でも繁殖 状態にないものなど、個体の繁殖状態は様々であった。以上のことから、雌においては、各個体の実 際の繁殖状態への移行は非同調的であることが示唆される。今後、調査の継続により、年一峰型か二 峰形かが明らかになるだろうが、雌の6月から8月までの繁殖状態は、特に着目すべき点である。繁 殖サイクルの決定は、野外において夜間決定するのは非常に困難であるが、体重と生殖器の状態から 、妊娠中かどうかは判断できた。しかし、出産、授乳の有無や一腹仔数の決定ができるほどのもので はなかった。これは妊娠個体などを参考にして判断材料を増やす必要がある。 2.行動圏の分布と樹木の分布  これについては現在調査中である。

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