カボチャ導管液中の有機物質(タンパク質)の機能解明

櫻井 正人         指導教官:佐藤 忍

【背景・目的】
  高等植物の根は土壌から水や無機栄養塩類を吸収するだけでなく、サイトカイニンなどの植物ホルモンを始めとする様々な有機物質を生産し、導管中を流れる導管液により地上部器官に供給することで地上部器官の発生や機能に積極的に関与していることが示唆されてきている。導管液中にはホルモンやアミノ酸などの低分子物質の他に、タンパク質(glycine-rich protein, レクチンなど)や多糖などの高分子物質も存在している。それら高分子物質の機能は今のところほとんど解明されていない。ただし、導管液には血球凝集活性があることが示されており、この活性を持ったタンパク質(レクチン)が何らかの生理活性を持つのではないかと期待される。本研究は機能不明な有機物質、特にタンパク質に注目してその生理活性・機能の解明を目的としており、高等植物の個体における根の役割の解明に寄与することを目的としている。

【方法】
  10-4Mジベレリンにより節間を伸長させた播種後約16日後のカボチャ苗の第一節間部分を切断し、地上部器官を液体培地に挿して無菌的に培養するカボチャ無菌苗条培養系にて、根の状態を操作し、地上部器官の発生・成長にどのような差が見られるかを観察し、根という器官全体が地上部器官に及ぼす影響を調査した。
  また、タバコBY-2細胞のプロトプラスト培養系において、カボチャ導管液そのものを培地に添加し、細胞凝集や分裂速度などに対する効果を調べた。

【結果と考察】
  カボチャ無菌苗条培養系において根を生やさない・根を蒸留水中に生やす・根を培地中に生やすの3処理区を比較した結果、根の存在の効果として葉の巨大化・葉数増加・葉の緑化(老化防止)・節間から生じる不定根形成促進・節数増加という傾向が見られた。また、栄養塩吸収の効果として葉の巨大化・葉の緑化(老化防止)という傾向が見られた。根ではサイトカイニンが生産されており、様々な生理作用に関与していると考えられるが、昨年、同じ培養系においてサイトカイニンを与えた実験では地上部器官にほとんど影響はなかった。したがって上記の生理作用が根で生産される導管液中のサイトカイニン以外の有機物質によるものであるという可能性も大いに考えられる。ただし、根の有無により水の吸収速度に大きな差が生じるので、単純に水の吸収の差に起因している可能性も否定できない。
  カボチャ導管液をタバコBY-2細胞のプロトプラスト培養系に与えてその効果を調べた結果、導管液を加えることにより、細胞が凝集しやすくなり、また細胞が伸長することが判明した。導管液中にはレクチンが含まれていることが判明しており、細胞凝集をはじめ細胞壁再生促進や分裂促進などの生理作用に関与していることが期待される。タバコBY-2細胞の細胞伸長はサイトカイニンにより促進されることが過去に報告されているが、導管液中に含まれるサイトカイニン濃度は有効濃度の1/10程度と推測され、これにも他の有機物質が関与している可能性がある。  
  現在、カボチャ導管液中のタンパク質をカラムを用いて分離・精製しており、そのN末端および内部アミノ酸配列を決定し、PCR法を用いてcDNAの単離・解析を行うとともに、上記の各生理作用にどの物質が関与しているのか、研究を進めていく予定である。


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