佐々木隆浩 指導教官:酒井慎吾
<背景>
不定根とは、植物体の根以外の器官から新たに形成される根の呼称であり、傷害を受けた場合などにはその形成が誘
導される。生理的には根の働きを補う役割があると考えられ、古くから多くの研究がなされている。現在までに、根
でつくられている物質が不定根形成を阻害することや、形成誘導時には傷害・エチレン・オーキシンという3つの要
因が関与していることが示唆されている。しかしながら前述のようにエチレンの関与が示唆されているものの、その
産生を制御する鍵酵素であるACC合成酵素をコードする遺伝子発現と不定根形成誘導との相関については調べられて
いない。
ACC合成酵素遺伝子はマルチ・ジーン・ファミリーを形成し、誘導要因によって傷害誘導型、IAA誘導型などに区
別されている。しかし、各誘導要因による発現調節の機構については不明な点が多い。我々の研究室では渡辺によっ
てカボチャのACC合成酵素遺伝子であるCM‐ACS1,3,4,Aが単離されており、中果皮組織を材料とした発現制御に
ついての研究がなされてきている。しかしながら、胚軸での発現制御については調べられていない。また、カボチャ
実生胚軸は不定根形成が非常に誘導されやすい材料として知られており、前述の各遺伝子のいずれかが不定根形成誘
導時に重要な役割を果たしている可能性が考えられる。そこで本研究では、材料にカボチャ胚軸を用い、前述の遺伝
子群の胚軸における発現特性を調べた上で、さらにその中に不定根形成の誘導と相関性のある発現パターンを示す遺
伝子を探索することを目的とした。
<方法>
・胚軸における各ACC合成酵素遺伝子の誘導因子の特定
暗条件下で10日間生育させたカボチャ黄化実生から4cmの胚軸切片を調整し、各検定溶液(IAA、IAA作用阻
害、エチレン作用阻害、無処理溶液)中で一定時間インキュベートした後、RNAを抽出し、シートを作成した。こ
のシートに対し、各ACC合成酵素遺伝子のcDNA断片を鋳型として作成したプローブをハイブリダイズさせるこ
とで、各遺伝子の発現の変化を調査した。
・不定根形成の誘導条件と各遺伝子の発現
カボチャ実生を明条件下で10日間生育させた後、根を除去した状態で一定時間各検定溶液で培養を続け、不定根形成
の誘導状態を観察するとともに、遺伝子発現の状態を上記と同様にノーザン法によって調査した。
<結果と考察>
黄化胚軸において各遺伝子(CM-ACS1,3,4,A)の発現を調べた結果、その発現パターンに明らかな差異が認められ
た。その中で、CM‐ACS4は傷害によって誘導をうけ、IAA処理によってその発現が促進されるタイプの遺伝子であ
ることが示された。また明条件下での観察では、傷害を与えた実生においてIAA処理が不定根形成を促進しているこ
とが示唆された。これら結果から、カボチャの実生は傷害を受けるとそのシグナルによりACC合成酵素が誘導され、
エチレンの産生を経て不定根が形成されること、そしてそのシグナル伝達にIAAが関与していることが示唆された。
現在、傷害・エチレン・IAAと不定根形成との相関を調べているところである。