相模湾における基礎生産量の季節変化
笹野 大輔 指導教官:濱 健夫
【目的】
海洋における生態系および生物地球化学的なサイクルの中で、有機物は極めて重要な役割を果たしている。
海洋中では、ほとんどの有機物が主に植物プランクトンによって生産されており、この生産された有機物は
海洋の生態系を通した物質およびエネルギーの流れの基礎をなしている。このため、植物プランクトンによ
る基礎生産過程の解明は、物質循環の理解に対して重要な情報を与える。本研究では、相模湾を研究対象と
して、月1回の基礎生産量と物理・化学的な環境条件の測定を行うことにより、基礎生産量の季節変化およ
びその制限要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】
1999年6月から12月(8月は除く)までの6ヶ月間、東京水産大学練習船「青鷹丸」の航海におい
て、相模湾の測点S3(35°00`N、139°20`E)から、毎月1回のサンプリングを行った。採
水は水中照度が表面の100、50、25、12.5、6、3%となる深度からバンドン採水器を使って行
った。採水した試水を9Lのポリカーボネート瓶に移し、トレーサーとしてNaH13CO3を添加し、甲板に設置
した水槽内において自然光下で24時間培養した。培養・非培養試料の両サンプル共にガラス繊維濾紙
(WhatmanGF/F)を用いて濾液と懸濁物とに分別した。濾液について栄養塩濃度(NO3−、NO2−、NH4+、PO43−、
SiO2)を、懸濁物について懸濁態有機炭素(POC)量、13C同位体比およびクロロフィルa量を測定した。得
られたクロロフィルa量およびPOC量・13C同位体比から求めた基礎生産量を有光層内で積算し、1m2当た
りの基礎生産量およびクロロフィルa量を算出した。
【結果と考察】
1)有光層内で積算したクロロフィルa量は、6月に最大値(33.3mg・m−2)を示した。クロロフィ
ルa量が6月で最大となるのは、冬季の循環により有光層へ供給された栄養塩がまだ有光層内に残存してい
たためと考えられる。クロロフィルa量は9月に最小値を示したが、これは9月には成層が発達しており、
表層での栄養塩が枯渇していたことが原因であろう。その後、10・11月とクロロフィルa量は増加の傾
向を示した。この季節は、成層が衰退しており、それに伴い深層からの栄養塩が有光層へと供給されたため
と思われる。12月になると、再びクロロフィルa量は減少した。この減少は、海水温の低下により植物プ
ランクトンの活性が抑制されたことを示唆している。この様に、植物プランクトン現存量と水塊の構造およ
び有光層への栄養塩の供給状態との関係を知ることができた。
2)基礎生産量は、全体的には有光層内のクロロフィルa量の変動と同様であり、6・7月は共に高く、9
月では減少するが、10月には最大値を示した(761mgC・m−2・d−1)。その後、11・12月では再
び基礎生産量は減少した。この結果は、基礎生産量が基本的には植物プランクトンの存在量に依存して変動
していることを示唆している。しかし、基礎生産量とクロロフィルa量の変動は完全に一致しておらず、ク
ロロフィルa当たりの基礎生産量は2倍程度の変動を示した。今後は、各月・各層毎に生産物中の脂肪酸、
アミノ酸、炭水化物などの各有機物について存在量および生産量を求め、植物プランクトンがどのような生
理状態にあるのかを明らかにするとともに、優占している植物プランクトンの群集組成との関連を明らかに
していく予定である。
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