昆虫の嗅覚系一次中枢における電気刺激および匂い刺激による応答の
光学的計測
  関 洋一     指導教官:神崎 亮平

<目的> 昆虫の嗅受容細胞において神経情報に変換された匂い情報は、触角神経を上行して脳
内の嗅覚系一次中枢である触角葉に伝達される。触角葉は触角内でのみ終末する局所介在神と触
角葉と他の神経を結ぶ出力ニューロンからなる。これらは嗅受容細胞とともに多数の糸球体構造
を形成する。このような組織学的構造は、脊椎動物の嗅球と類似のものであるとともに、最近で
はその匂い識別機構も類似することが示唆されている。本研究では、この触角葉において2種類
の光学的計測手法を用い、細胞集団の活動をイメージングすることを試みた。ひとつは、@膜電
位感受性色素を用いた膜電位の変化をとらえる方法であり、もうひとつは、ACa Indicatorをも
ちいた細胞内カルシウムイオン濃度の変化をとらえる方法である。@、Aの方法とも触角葉にお
ける神経活動の応答の多点同時計測ができることには変わりはないが、@は時間分解能は高いが、
空間分解能は低い.Aではその逆という特徴がある。つまり、@では感覚神経と介在神経の応答
の分離などに有効で、Aでは@ではとらえにくかった、匂い刺激による応答の、領域的な差異を
検出するのに有効である。

<方法> 鱗翅目昆虫のカイコガ(Bombyx mori)の雄を用い、頭頂部を切開して脳神経節を
露出し、先の鋭いピンセットで中大脳の神経鞘を除去した。その後@では、膜電位感受性色素
(RH414)で、AではCa Indicator(CaGReen1 AM or CaGreen2 AM)で染色し、触角神経を
ガラス性吸引電極を通して、電気刺激し、神経活動の応答を計測した。

<結果・考察> @で電気刺激を行った結果:触角葉全体に伝播する神経応答が計測できた。
sampling rate 0.6msec/frmで最大Δf/f=0.8%程度の光量変化を得ることができた。
Aで染色の確認を行った結果:染色像の比較により、CaGreen2がロードされていることが確認
できた。このためAについては、標本が Ca Indicatorに染色されているかを確認するために、
CaGreen2 AMに浸けた標本の光量を30分ごとに計測して比較した。しかし、まだ神経活動の
応答の計測には至っていない.厳密な染色コンディションを確立次第、Aの方法による測定も実
施するとともに、@、Aのそれぞれの有効性を生かして、触角葉における匂い識別機構の解明を
していきたいと考えている。

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