霞ヶ浦における溶存態有機物の分子組成とその生成過程

高橋 真理       指導教官  及川 武久

 

【目的】

海洋、湖沼などの水圏に存在する有機物は、その生成、輸送、分解の過程を通して、炭素などの元素をはじめとする様々な元素の存在形態、分布、そして輸送に大きく影響している。一般に、水圏の有機物の多くは、溶存態有機物(DOM)として存在している。このため、溶存態有機物の生態系および物質循環系において果たしている役割は大きいものと予想される。しかしながら、溶存態有機物については、その有機物組成や生成過程および安定性など、解明されていない点が多い。本研究では、霞ヶ浦を対象水域として、植物プランクトンによる生成過程に着目し、13Cトレーサー法と分子量分画とを組み合わせる方法を適用し、生産される溶存態有機物量およびその分子量組成を明らかにすることを目的とした。

【方法】

1999年8月3日早朝に霞ヶ浦土浦港において試水を表層から9lのポリカーボネイトの容器に採水し、13C-NaHCO3を加え午前6時から4日午前6時まで1日培養した。試水は、ガラス繊維濾紙(Whatman GF/F)を用いて濾過し、濾液と懸濁物とに分別した。濾液2lをホローファイバーカートリッジを用いて、分子量>10kDaおよび<10kDaの2画分に分画した。それぞれの分画について、溶存態有機炭素(DOC)濃度を測定した。また、溶存態有機炭素の13C同位体比については、濃縮液をガラス繊維濾紙上に吸着し、乾燥させた後、質量分析計により測定した。DOCの生産量は、各試料の炭素濃度および13C同位体比から算出した。

【結果と考察】

1)溶存態有機炭素の濃度は、低分子量画分で1.95mgC・l-1、高分子量画分で0.96mgC・l-1であり、低分子量有機物が主要な構成物であった。また、同一試料を用いて、3回行った分画の結果、高分子量、低分子量の画分に含まれるDOCの濃度の変動係数は、それぞれ2.42%、1.46%であり、分画およびDOC濃度の測定は、十分な精度をもつことが確認された。

2)培養後のDOCの13C同位体比は、高分子量画分で1.44%、低分子量画分で1.14%と、培養前の値(1.10%)より増加しており、光合成で生産された有機物がDOMとして細胞外に排出されていることが明らかになった。高分子量画分における同位体比の増加は、低分子量画分における増加を大きく上回っており、高分子の有機物が主要な生産物であった。

3)植物プランクトンによる生産を通したDOCの回転時間を見積もると、全DOCでは、50日程度と算出された。高い生産量が認められた高分子量画分のDOCの回転速度が20日程度であったのに対し、低分子量画分のDOCの回転時間は200日程度と、両者の間には、約10倍の違いが認められた。これは、低分子量画分のDOMが、比較的安定な有機物を多く含むことを示唆している。


誤字、脱字がありましたら下記にご連絡下さい。
s960855@ipe.tsukuba.ac.jp

タイトル集に戻る
一つ前の要旨を見る
次の要旨を見る
タイムテーブルを確認する