植物プランクトンの沈降過程に関する実験的研究
竹内 希 指導教官 濱 健夫
[目的] 海洋に存在する有機物の大半は、海洋表層での植物プランクトンの光合成により生産されている。 多種多様な生物の中で、植物プランクトンは基礎生産者として海洋の物質循環において大きな役割 を果たしている。表層で生産された有機物は海底方向へと輸送されるが、その役割を果たしている のが沈降粒子である。沈降粒子を構成するものとしては、動物プランクトンの糞粒の存在が報告さ れているが、それに加えて植物プランクトン細胞の凝集物も有機物の沈降に大きな役割を果たして いると考えられている。 本研究では、相模湾より採取した植物プランクトンの自然群集を用いて沈降実験を行い、懸濁態 有機物の沈降過程に対する植物プランクトンの役割を明らかにするために、基礎的な検討を行った。 [方法] 実験は1999年の6,7,10,11および12月に、東京水産大学・練習船「青鷹丸」の航海 の際に実施した。相模湾の測点S4の深度5mよりバンドン型採水器により海水を採取し、9lの ポリカーボネート瓶に移した。培養用にはトレーサーとしてNaH13CO3を加えた後、船上の水槽にお いて自然光の下で日中培養した。培養試料は日没後に直径15cm高さ75cmの9lの円筒状容 器に移し、翌朝まで12時間静置した。静置試料は容器の下部から静かに試料を排出させ3lずつ 上層、中層および下層の3画分に分離した。各層について、クロロフィルa 濃度、懸濁態有機炭素 (POC)濃度、生産量を測定した。 [結果・考察と今後の展開] 1)クロロフィルa 濃度は、12時間の静置の後に下層で高く、上層で低い傾向が見られた。こ の結果から、植物プランクトンに12時間の静置の間に沈降する傾向があることが確認された。 2)POC 濃度はクロロフィルa 濃度と一致しないことが多く、上層で高い傾向が見られる例が多 かった。植物プランクトンに沈降しやすい傾向が見られたことから考えると、上層には動物プラン クトンなどの非植物プランクトンの有機物が集中していたのではないかと思われる。7月は実験結 果の中で下層でのPOC 濃度が高く、また、生産された有機物の40%が下層にあり、有機物の沈降 量が多かったことが示唆された。7月のPOC 濃度が高かったことを合わせて考えると、高濃度の凝 集態粒子の存在と、沈降粒子の形成との関連を示唆しているものと思われる。 3)このような凝集態の形成には、植物プランクトンが生成する多糖類が関係していることが報 告されはじめている。多糖類は植物プランクトンの細胞同士をつなげる役割をしていて、植物プラ ンクトンが沈降していく上で大きな役割を果たしていると考えられている。今後はそのような多糖 類の測定も合わせて進めることにより、有機物の沈降における植物プランクトンの役割の解明が進 むものと思われる。