マウスの受精卵における精子ミトコンドリア拒絶機構の解明
田水映子 指導教官:林純一
【導入】
真核生物の細胞内小器官であるミトコンドリアにはミトコンドリアDNA(mtDNA)と
呼ばれる独自のDNAが存在する。受精の際精子は、数十万分子の卵細胞mtDNAに対して
数百分子のmtDNAを卵細胞内に持ち込む。先行研究によれば、マウス、ショウジョウ
バエ、ムラサキイガイの異種間雑種では精子のmtDNAが子孫に伝搬するとの報告もあ
るが、一般的な同種間雑種は、受精の際卵内に入った精子由来のmtDNAは4細胞期以
降に消滅することが示されている。つまり特殊な場合を除いて、mtDNAは母系遺伝の
形式で遺伝すると考えられている。
しかし、外来mtDNAがすべて拒絶されるわけではない。先行研究において、生殖系
の細胞をマウス未受精卵に移植すると発生初期にその生殖系の細胞由来のmtDNAは検
出されなくなるが、体細胞由来のミトコンドリアをマウス受精卵に移植すると4細胞
期以降でもその体細胞由来のmtDNAは検出された。この様に、受精後に精子ミトコン
ドリアが選択的に認識・排除される機構が卵に存在すると考えられる。その機構の一
つとしてユビキチン〜プロテアソーム系が注目されている。
【目的】
精子ミトコンドリア特異的タンパク質が受精後、卵の細胞質に存在する分解系に認
識されることにより精子ミトコンドリアが選択的に排除されることを作業仮説とし、
マウスの精巣、肝臓、腎臓、心臓、脳のミトコンドリアからタンパク質を抽出した。
得られたミトコンドリアタンパク質について二次元電気泳動法により組織特異的ミト
コンドリアタンパク質を同定し、精子ミトコンドリアの選択的排除機構について解明
することを目的とした。
【材料と方法】
マウス精巣、肝臓、腎臓、心臓、脳からのミトコンドリア画分は、各組織をホモジ
ェナイズし、sucrose密度勾配遠心(500g,10min,10℃)で除核した後、percoll密度
勾配遠心(3000g,45min,10℃)することにより得られた。それぞれのミトコンドリア
画分についてDAPI、MitoTrackerで染色し、またミトコンドリアの呼吸鎖酵素である
クエン酸合成酵素、シトクロムcオキシダーゼ活性も測定した。これら各組織のミト
コンドリア構成タンパク質を尿素抽出液を用いて抽出し、一次元目に等電点電気泳動
、二次元目にSDS-PAGEを用いた二次元電気泳動法によりタンパク質スポットとして展
開し、そのパターンを比較した。
【結果と考察】
上記の方法でミトコンドリアを分離したところ、すべての組織からのミトコンドリ
ア画分が上下二層に分割していた。それぞれの層のクエン酸合成酵素、シトクロムc
オキシダーゼ活性を測定したところ上層の活性が下層のそれより高かったため、上層
から抽出したタンパク質試料を二次元電気泳動解析に使用することにした。しかし精
巣由来のミトコンドリア画分はDAPI、MitoTrackerの両者によって染色されたため、
核の混入は明らかであった。今後、より純度の高いミトコンドリア画分を得るため、
少なくとも核の混入のない分離法について検討していく必要がある。
ミトコンドリア画分上層由来のタンパク質の二次元電気泳動法による解析から、精
巣特異的タンパク質と思われるいくつかのタンパク質スポットを検出することができ
た。今後、これらのタンパク質がユビキチン化されているか否かをwestern blot法に
より調べ、精子ミトコンドリア拒絶機構との関連について検討していく予定である。
誤字、脱字がありましたら下記にご連絡下さい。
s960865@ipe.tsukuba.ac.jp
☆タイトル集に戻る
☆一つ前の要旨を見る
☆次の要旨を見る
☆タイムテーブルを確認する