無機栄養素欠乏植物における

アスコルビン酸ペルオキシダーゼの誘導

恒松 希    指導教官:松本 宏

【導入・目的】

 植物の生育にとって、無機栄養素の供給量は非常に重要な環境要因の一つである。植物が正常に生育するために必要な元素が欠乏した時、抗酸化酵素や抗酸化物質のレベルが変動するという報告が近年いくつかある。中でもMg欠乏条件下で生育したインゲン初生葉において抗酸化酵素活性が高まり、スーパーオキシド発生剤であるパラコートに対する抵抗性が顕著に高まること、及びアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APx)が元素欠乏に対して最も初期にレスポンスすることが先行研究で示唆されている。

 そこで本研究では、植物体の生育に必要なMgやその他の無機栄養素欠乏下におけるAPx誘導の特性を明らかにすることを目的とした。

【実験材料・方法】

供試植物:インゲン(Phaseolus vulgaris L.cv.Meal)

初生葉展開時まで生育させたインゲンを水耕栽培に移し、各処理区あたり5l用のコンテナーで20個体を栽培した。この際、全ての無機栄養元素を加える処理区と各元素を欠乏させた処理区(-Mg, -Fe , -Zn , -Cu , -Ca ,-Mn)を設け、処理10日目まで生育させた。また、水耕の際には全てエアーポンプにより酸素の供給を行った。

  1. Mg欠乏条件下におけるAPx活性の経時的変化
  2. インゲン初生葉約1gを切断採取し、それを液体窒素で凍結、粉砕した。リン酸カリウム緩衝液7mlを加えて磨砕、攪拌し、15000×gで20分間遠心した。上清を粗酵素液としてその活性を分光光度計で測定した。反応開始はH2O2の添加で行い、アスコルビン酸の分解をA290の減少で追跡した。

  3. その他の無機栄養素欠乏下におけるAPx活性の経時的変化
  4. 各元素を欠乏させる処理を行い、_と同様に生育、測定した。

  5. 光強度によるAPx活性変化の測定

光強度を変えて(各50260420μE/m2s)生育させ、_と同様にAPx活性を測定した。

_ -Mg条件下におけるクロロフィル蛍光の測定

  Mgを欠乏させたインゲン初生葉におけるクロロフィル蛍光(光合成収率:ΔF/Fm)をWALT社製MINI PAM光合成収率アナライザーを用いて測定した。

【結果・考察・今後の展開】

  -Mg区では+Mg区と比べて処理4日目以降にAPx活性が上昇し、10日目では+Mg区の2倍近くの活性が見られた。-Zn,-Cu,-Ca区でも同様にコントロールの約2倍の活性を示した。一方、-Fe,-Mn区ではその活性はコントロールとほとんど変わらなかった。これらの結果から、Mg , Zn , Cu , Caを欠乏させると抗酸化酵素の一つであるAPx の活性が著しく上昇するということが明らかとなった。また実験_では光強度が強いほどAPx活性の誘導が大きいという結果が得られた。強光下では光合成電子伝達系が過剰に促進され、エネルギー過剰になり活性酸素が多く生成するということが知られている。強光下でより高いAPx活性が得られたということから、APx活性上昇に活性酸素が関与しているということが示唆された。-Mg処理をすると4日目以降にAPx活性が上昇するという実験_の結果、さらに実験_の活性酸素量とAPx活性上昇との関係から、その前段階においてAPxの基質であるH2O2のレベルが上昇しているということが推定される。そこで無機栄養素が欠乏した際に炭酸固定能が低下し、エネルギーが過剰になったために活性酸素が生成し、その結果抗酸化酵素であるAPxレベルが上昇するという可能性を考え、実験_を行った。しかしクロロフィル蛍光を測定した結果、光合成収率の低下は7日目以降、つまりAPx活性が上昇した後で起こることがわかった。光合成収率の低下によって活性酸素が生成し、その結果APxレベルが上昇したのではなく、別の要因により早期に過剰量の活性酸素が生成したためにAPx活性の誘導がおこり、一方で光合成能が低下したものと推定される。

 今後は無機栄養素欠乏下にける活性酸素発生の機構、さらには活性酸素レベル上昇が酵素活性誘導を引き起こす機構についてさらに検討していく予定である。


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