二次元電気泳動法による南極魚類の系統解析
土岐田 昌和 指導教官 宮崎 淳一
<目的・導入>
南極の魚の約4分の3はスズキ目のノトセニア亜目の魚類が占めている。その特異な環境に適応するために彼らは様々な特殊化をしている。例えばノトセニア科のある魚は体内に不凍糖ペプチドをもち、エネルギーを消費しなくても体が凍結しないようになっている。また、コオリウオ科の魚は血液中のヘモグロビンを欠いている。ノトセニア亜目は、ボビクチス科、ノトセニア科、アルテディドラコ科、ハルパギファー科、バシドラコ科、コオリウオ科の6科に分類されており、それらの系統関係は特定遺伝子の配列や形態形質の比較から調べられている。しかしその内部関係やアウトグループについては議論が多い。本研究では二次元電気泳動法を用いて心臓の蛋白質成分を比較し、種間の遺伝的距離を求め、ノトセニア亜目の系統関係を調べることを目的とした。
<材料と方法>
ノトセニア亜目からノトセニア科のTrematomus eulepidotus (T. b.) , Pagothenia borchgrevinki (P. b.), Gobionotothen gibberifrons (Gob. g.), バシドラコ科のGymnodraco acuticeps (Gym. a.), コオリウオ科のChampsocephalus gunnari (C.g.) の全5種。また、アウトグループとして分類学的に近縁であるとされるゲンゲ科のAllolepis hollandi (A. h. ノロゲンゲ)を用いた。
各々の魚の心臓を湿重量の20倍量のグアニジン塩酸で抽出し、尿素溶液で透析した後、一次元目にアガロースを用いた等電点電気泳動、二次元目にSDS-PAGEを行った。得られた二次元平面ゲルパターンの比較はMiyazaki et al.(1987)に基づいて行い、ゲル上に展開された蛋白スポットが共有されるか否かを調べ、Aquadro and Avise(1981)の式に従い遺伝的距離を算出した。
<結果>
<考察>
アウトグループのノロゲンゲと他のノトセニア類の間の遺伝的距離はノトセニア種間のそれに比べ、総じて大きい値を示した。また、ノロゲンゲとノトセニア類の間では二次元電気泳動パターンが著しく異なることから、南極の魚では寒冷な外界に適応するために心臓において特殊な蛋白質が発現していると考えられる。
また、ノトセニア種間の関係をみてみるとUPGMAとNJで樹形が異なる。前者ではヘモグロビンを持たない点で特殊化しているコオリウオ科のC. g. が早い時期に分岐している。一方、後者では、始めにノトセニア科のGob. g.が分岐し、コオリウオ科のC. g.とバシドラコ科の Gym. a.が一つのクレードを形成している。骨学データやミトコンドリアDNAのシークエンスを用いた先行研究の結果は後者により近く、特に血液色素の組成を考えた場合、C. g. はヘモグロビン(Hb)を欠いており、Gym. a.はHb1しか持たないという特徴は、進化不可逆の法則(Dollo's law)の点からも派生的と考えた方が妥当であると思われる。
今後は、残りの3科の魚や、他のアウトグループの魚も含め幅広い系統解析を行っていきたいと考えている。
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