高等植物におけるテロメラーゼの調節機構に関する研究
平元 円 指導教官 酒井 慎吾
【目的】
テロメアは真核生物の染色体末端にあるG
/Crichの短い繰り返し配列である。このテロメアDNAには種々のタンパク質が結合して複雑な構造をつくっており、染色体の安定化など重要な機能を担っている。細胞分裂の際、通常のDNA複製機構だけでは、テロメアは、少なくともRNAプライマーの結合領域分が短縮されてしまう。この短縮されたテロメアの修復を主に行っているのがテロメラーゼであるといわれている。植物におけるテロメラーゼは、花粉などの生殖細胞、根端、茎頂部、花芽、培養細胞といった細胞分裂の盛んな組織では活性が認められるが、生長した葉や茎では活性が低く、休眠芽では活性が認められないことが報告されている。つまり、分裂の盛んな組織では、テロメアを修復することで細胞分裂が制限されないようにしていると言える。しかし、動物に比べて、植物におけるテロメラーゼの研究は未だ少なく、テロメラーゼ活性のアッセイ系は、動物で用いられているTRAP法をそのまま用いている現状である。この方法は簡便ではあるものの定量性に問題があることが指摘されており、高等植物におけるテロメラーゼを生理学的、生化学的に解析する上で、その活性を定量的に検出できるアッセイ系の確立は特に重要である。当研究室の平田により、動物において定量性に長けているといわれるStretch PCR法が植物においても確立された。しかしながら、植物組織の抽出物には様々なアッセイに影響を及ぼす物質が含まれていると考えられる。そこで、本研究ではそれらの夾雑物を除く操作を行い、除き切れていない夾雑物の影響や、サンプル毎の操作上の誤差を考慮できるよう、Internal Standardを入れたアッセイ法を確立し、タバコ植物体の各組織におけるテロメラーゼ活性そ測定することを目指した。また、タバコ液体培養細胞の抽出液にはテロメラーゼ活性調節因子が存在していることが平田により示唆されたので、タバコ植物体各組織における活性調節因子の存在の有無を明らかにし、植物におけるテロメラーゼの活性調節機構の一端を解明することを目的とした。【方法】
タバコ(BY−
2)のカルス、液体培養細胞、茎頂、葉、茎、根の各組織からタンパク質を抽出し、夾雑物を除くためDEAEセファロースカラムを用いて分画した。それぞれの活性画分をstretch PCR法によりテロメラーゼ活性を測定した。Stretch PCR法は、サンプル20μlを使ってテロメラーゼ反応を行い、反応産物を精製後、α32P-dCTP存在下でPCRによって増幅した。反応産物は7%Acrylamid gel電気泳動で分離し、BAS2000を用いて定量した。【結果と考察】
予備実験として、抽出したタンパク質を分画せずにおこなったアッセイでは、カルスと液体培養細胞で活性が検出され、葉、茎、根の各組織では活性が検出されなかった。以上の予備実験から、細胞分裂の盛んな組織ではテロメラーゼ活性が検出されることが明らかになり、植物におけるテロメラーゼは各組織の分化の過程で活性が調節されていることが示唆された。現在、
Internal Standardとして、約250bpのDNAにアッセイの際用いるプライマーをつないだものを作成中であるので、Internal Standardを用いたアッセイ法で、各組織のタンパク質をDEAEセファロースカラムを用いて分画し、より正確な組織別活性を測定する予定である。さらにDEAEセファロースカラムで分画した画分の混ぜ合わせ実験を行い、それぞれの組織におけるテロメラーゼ活性の調節因子の存在の有無について明らかにする予定である。