【目的】
生物が日長の変化を利用して発生、分化、生長を制御する性質を光周性といい、植物の開花が日長の変化によって制
御されることを光周性花成誘導という。この光周性花成誘導は、フィトクロムによる暗期(明期)の感受、暗期の長さ
の計測、シグナル伝達、花成ホルモンの合成、花成ホルモンの転移といった過程を経ると考えられている。これらの過
程は葉で進行すること、核酸の合成阻害剤によって花成が阻害されることから遺伝子発現が必須であること等がわかっ
ており、葉において花成誘導暗期中に特異的な遺伝子発現があることが予想されている。
アサガオ品種ムラサキ(Pharbitis nil choisy cv. Violet)は極めて敏感な短日植物であり、光周性花成誘導の研
究のモデル植物として広く用いられている。当研究室において、光周性花成誘導の分子機構を明らかにするため、誘導
暗期中に特異的に発現が増加し、サーカディアン発現変動を示す遺伝子としてPnGLP、PnC401が単離された。これらの
遺伝子は光周的花成誘導に何らかの関係を持つことが予想されているが、その機能は未解明である。
本研究ではPnGLP、PnC401と長日植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)におけるこれらのホモログ
AtGLP1,2、AtC401について,、これらの遺伝子発現をモニターするレポーター遺伝子を用いた発現解析により、光周性
花成誘導機構の解明の糸口を得ることを目的としている。
【方法】
1.GFP融合タンパク質の発現解析
アサガオとシロイヌナズナにおいて、PnGLP 、PnC401、AtC401タンパク質とクラゲの緑色発光タンパク質GFP(Green
Fluorescence Protein)との融合タンパク質を作るような形質転換体を作出し、生体内でこれらのタンパク質の局在を
調べた。
2.AtGLP1,2、PnC401、AtC401のプロモーター解析
アサガオとシロイヌナズナにおいて、AtGLP1,2、PnC401、AtC401のプロモーターにホタルのルシフェラーゼ遺伝子を
連結した形質転換体を作出し、ルシフェラーゼアッセイにより、生体内での発現の計時変化を解析した。
3.C401遺伝子の組織レベルでの発現解析
アサガオとシロイヌナズナにおいて、PnC401、AtC401のプロモーター領域にレポーター遺伝子としてGUS遺伝子を連
結した形質転換体を作出し、これらの遺伝子の生体内における発現部位をGUSアッセイによって調べた。
【結果と考察】
シロイヌナズナにおけるGFP融合タンパクの局在解析の結果、PnGLPは細胞間隙に存在しており、PnGLPは細胞外に輸
送されることが判明した。一方、AtC401は細胞質に存在しており、細胞質で働くことが予想された。
また、ルシフェラーゼアッセイの結果、AtGLP1,2、PnC401、AtC401が葉においてサーカディアン発現を示すことが確
認された。
プロモーターのGUSアッセイについては、葉においてPnC401、AtC401遺伝子の発現が確認された。現在、個体におけ
る詳細な発現部位を調べるため、T1世代から種子を採取中である。
アサガオにおいては、個体の再分化効率が悪く、これまで形質転換体作出の報告は無かったが、レポーターアッセイ
のコントロールの形質転換体の作出に成功した。現在、他の形質転体も順次作成中である。これらの形質転換体ができ
しだい詳細な発現解析を行う予定である。
また今後は、各遺伝子の過剰発現、発現抑制による形質転換体の表現型の観察などを通し、これらの遺伝子の機能を
解析していく予定である。