絶滅危惧種サクラソウにおけるマイクロサテライト遺伝マーカーの開発

                          本城 正憲  指導教官 鷲谷 いづみ

<目的>

 
固着性の種子植物において、花粉による遺伝子流動を把握することは、植物の繁殖システムや花の形質の進化を理解する上で重要であるだけでなく、絶滅危惧植物個体群の保全のための有効な管理計画を立てる上でも有用な情報を提供する。
 
遺伝子流動の分析には、種子の花粉親や実生の両親を特定できる遺伝マーカーが必要であるが、そのような遺伝マーカーとしてはマイクロサテライトが最も有望である。マイクロサテライトとは、真核生物のDNAにある1〜6塩基からなる反復配列であり、その反復数に大きな変異があるため個体群内における個体の識別に利用できる。その利用のためには、あらかじめその変異を容易に検出できるマイクロサテライト遺伝子座を見いだし、それをPCRで増幅するためのプライマーを開発することが必要である。
 
本卒業研究では、サクラソウPrimula sieboldii E. Morrenの遺伝子流動を把握するためのマイクロサテライト遺伝マーカーの開発を試みている。サクラソウは日本全国に分布する草本であるが、生育地の破壊などにより衰退し、今では絶滅危惧種となっている。異型花柱性という特殊な交配様式をもち、2つの花型が見られ、健全な種子生産にはマルハナバチの訪花による異型花間の受粉が必要である。

<方法>

 
北海道日高地方由来のサクラソウ栽培個体から1999年5月に葉を採取し、CTAB法によりDNAを抽出した。そのDNAをDOP PCR法で増幅した後、制限酵素Xho Iで切断し、Gene Clean Kitで400〜800bpの断片を回収した。この断片を、制限酵素sal Iで切断したプラスミド(pUC19)に組み込んで大腸菌に導入し、含アンピシリンLB寒天培地で培養した。その大腸菌コロニーをナイロンメンブレンに移し取り、マイクロサテライトと相補的に結合するDIGプローブとハイブリダイズさせ、抗体抗原反応による発光を利用するDIG法を用いてマイクロサテライトを取り込んだ大腸菌コロニーを選択した(1次スクリーニング)。同様にして二次スクリーニングを行い、選択されたコロニーから精製カラムを用いてプラスミドの回収を行った。そのプラスミドをテンプレートとしてサイクルシーケンシング反応を行い、産物を精製し後、自動シーケンサーで配列を読んだ。一部のものはプラスミドの回収量が不十分であったため、インサート部位をPCRで増幅した後、自動シーケンサーにかけた。

<結果>

 
上記手順により23のマイクロサテライト遺伝子座が見出だされた。それらは、CT(GA)、CA(GT)、CG(GC)、TA(AT)、TAA(TTA)の反復配列で、反復数は様々であった。中には、反復配列の中に別の塩基が挿入されているコンパウンドタイプや、2種類のマイクロサテライトが連続して並んでいるものなども認められた。今後、この中からプライマーを設計するための条件を満たしているものを選び、コンピュータソフトOLIGOtmを用いてプライマーを設計し、サクラソウの遺伝的変異の検出と遺伝子流動の分析における有効性を検討する予定である。

誤字,脱字がありましたら下記にご連絡下さい.
s960878@ipe.tsukuba.ac.jp

タイトル集に戻る
一つ前の要旨を見る
次の要旨を見る
タイムテーブルを確認する