2000年3月7日 9:40-9:55 第二学群棟B208
     幹細胞の分化を抑制する因子について
       ~血球系・神経系幹細胞でのSTAT3の機能解析~

発表者:村谷匡史  指導教官:山本雅之  責任教官:坂本和 一

研究の背景
 胎児期のヒトやマウスでは多くの細胞が活発に分裂しているが、成体の組織では一 部の細胞のみが分裂能を維持しており、これらは幹細胞と呼ばれている。血球系をは じめとした成体の組織の恒常性は幹細胞から新しい細胞が作られることで保たれてい る。一般に、いったん分化しはじめた動物細胞は短期間のうちに増殖能を失なってい くが、幹細胞だけは長期間にわたって未分化な状態で維持される。(図1)なぜ幹細 胞だけが生体内で分化の進行を免れることができるのかを理解することで、なぜ動物 には再生できる組織とできない組織があるのか、また、なぜ細胞の分化と増殖は相反 する現象のように見えるのかという問題への手がかりが得られると期待できる。

目的
 胚性幹細胞の培養では、高濃度の Leukemia inhibitory factor を培養液に加える ことで細胞内のSTAT3が活性化され、そのシグナルが胚性幹細胞を未分化に保ってい ることが示唆されている。これまでに、Stat3 のノックアウトマウスが、胎生6.5日 から7.5日の原腸陥入前に致死であることが報告されていが、この発生段階では、幹 細胞におけるSTAT3の機能を解析することはできない。本研究では、造血幹細胞と神 経幹細胞においても、胚性幹細胞と同様にSTAT3の持続的な活性化が分化を抑制して いるのではないかという仮説に基づいて、Stat3を血球系と神経系でそれぞれ特異的 にノックアウトして、in vivo でのSTAT3の機能解析を行った。

実験方法
 Stat3の特異的ノックアウトマウスは、バクテリオファージP1由来の組み替え酵素C reを発現するトランスジェニックマウス(mGATA2-Cre マウス)を作成し、大阪大学 の審良静男研究室で作成されたStat3遺伝子にCreの認識配列を組み込んだマウス(St at3 loxPマウス)とかけ合わせて作成した。(図2)
 mGATA2-Creマウスには、神経系と血球系の未分化な細胞で発現することが明らかに されているマウスの転写因子mGATA2の転写制御領域にCre遺伝子をつなげたDNAを導入 してあるため、mGATA2の発現する幹細胞でのCreの発現が期待できる。

結果
 現在、それぞれのトランスジェニックマウスの系統をかけ合わせており、一部の系 統について表現形の解析を始めたところである。今後さらに解析を行い、結果を発表 会にて報告する。

今後の展開
 表現形に異常があった場合には、細胞の分化、分裂、細胞死のどの段階に異常があ るのかをさらに解析し、STAT3の機能を推測しようと考えている。また、今後幹細胞 以外の細胞でSTAT3の活性化を抑制している機構を解明するには、幹細胞とその分化 を詳しく解析できる系を利用することが必要と思われる。

 今回発表する研究の他に、ロックフェラー大学、Alvarez-Buylla研究室で行った、 成体のマウスの嗅覚系に神経細胞を供給する幹細胞系での、細胞の分化状態とSTAT3 の活性化の相関についての研究のレポートもあります。また、誤字、脱字がありまし たら合わせて下記のメールアドレスまで御連絡ください。
     電子メール:muratani@ tara.tsukuba.ac.jp
     ホームページ:htt p://www.ipe.tsukuba.ac.jp/~s960884/


タイトル集に戻る
一つ前の要旨を見 る
次の要旨を見る
タイムテーブルを確認 する