<昆虫の匂い応答に関する電気生理学的解析>
               960885 矢野 武明 指導教官 中谷 敬


<背景>昆虫は匂い,音,光などの外界からの刺激に対して非常に鋭い感覚をもっており、その神経系の基本的な構成は脊椎動物の神経系と同様である。膜電位の発生メカニズムやシナプスでの情報伝達の機構も共通している。よって昆虫は神経系の研究をおこなうためのよいモデルとなる。   
今回は、ワモンゴキブリの触覚を用い、触覚全体の電位変化を記録する方法である触覚電図(Electroantennogram;EAG)法を用いて、匂い刺激に対する応答を記録した。

<実験方法>ワモンゴキブリの触覚の基部と先端を切除し、露出した触覚内腔に白金線電極を刺入した。基部側の白金線電極の直径は100マイクロメートル、先端のほうの白金線の直径は50マイクロメートルのものを用いた。刺激を与えることによって生じた触覚全体の電位変化を増幅器を用いて増幅し、オシロスコープで波形を観察すると共にペンレコーダーとデータレコーダーを用いて記録した。
 匂い刺激は次のような装置によって行った。匂い刺激をおこなうためには匂い物質溶液の入った複数の試験管から細いチューブをのばし、それらをひとまとめにして匂い刺激の噴出口を作成した。また、試験管にはシリンジから手動で空気を送るためのチューブを挿入し、匂い物質溶液と混ざった空気が噴出口から触覚前方1pの位置に噴出されるように設置した。カートリッジから放出された匂い刺激を排気するためにドラフト内で作業した。匂い物質にはisoamyl acetateやcineole等を使用した。

<実験結果>触覚にisoamyl acetateを投与すると、刺激に対して一過性の電位変化が観察された(例.図1)このような匂い応答は、cineoleなどの他の匂い物質に対しても同様であった。図1は様々な濃度のisoamyl acetateを投与したときのEAG応答を示す。コントロールとして無臭の空気を噴射しても電位変化は観察されなかった。応答の大きさは投与したisoamyl acetateの濃度が高くなるに従って増大し、最終的に飽和電位に達した。

この結果について、濃度の応答の大きさの関係をプロットすると、シグモイド状の関係が得られた。この結果から応答電位の大きさはisoamyl acetateの濃度に依存していると結論できる。


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