植物体内におけるピラゾール系除草剤の代謝活性化と不活性化

山口 貴宏   指導教官:神戸 敏明  責任教官:松本 宏
                           <背景と目的>  ピラゾール系除草剤にはピラゾレートとピラゾキシフェンがあり、共に感受性植物に対して白化作用を引き起 こす。これらが生体内で加水分解される際にピラゾレートはベンゼンスルホニル基が、ピラゾキシフェンではフ ェナシル基が解離して同じ化合物が生成されるものと考えられる。この加水分解体が除草活性を示す本体である と推定されるが、ピラゾレートとピラゾキシフェンではこの生成過程が異なっており、両者の活性本体への分解 速度に差が生じている可能性がある。また、生成された活性本体の分解にはピラゾール環の水酸化反応が関与し ていることが報告されている。したがって植物体内でのその代謝には水酸化反応を触媒するP450が関与してい る可能性が考えられるが、このことを示すデータはまだ出されていない。  本研究では、二つの除草剤に抵抗性を示すイネと感受性のタイヌビエを用い、活性本体への分解速度を比較し、 さらにP450阻害剤(piperonyl butoxide)による薬剤の代謝への影響を調べ、植物体内における剤の代謝へのP450 の関与とその役割について検討する。 <方法>  イネおよびタイヌビエに対するピラゾレート、ピラゾキシフェンの生育阻害活性、傷害の発現時期等の比較の ために以下の実験を行った。 1.イネ、タイヌビエを水耕法により第2葉の展開が終了するまで育てた。   これらの根部を25μM、50μMのピラゾレート溶液、または25μM、50μMのピラゾキシフェン溶液に   24時間浸漬させることにより処理を行った。   各薬剤を処理した植物体における害徴を経時的に観察した。また新鮮重を薬剤処理後0、3、6、9日目   に測定した。 2.感受性を示すとされるタイヌビエについて、実験1と同様の方法で生育、処理し、薬剤処理後3、6、9日   目の第3葉のクロロフィル含量、カロチノイド含量と6、9日目の第4葉のクロロフィル含量、カロチノイ   ド含量を測定した。 <結果と考察、今後の展開>  実験1ではタイヌビエにおいては顕著な生育阻害が確認され、処理後に展開した葉で白化がみられた。白化が 現れるまでの時間に両薬剤間で差は無かった。イネでは白化は観察されず、新鮮重も薬剤処理した植物体と無処 理区とでほとんど変わらなかった。これらの結果よりピラゾレート、ピラゾキシフェンはともに白化剤であり、 イネはこれらの薬剤に対して抵抗性であり、タイヌビエは感受性であることが確認された。  実験2では第3葉についてはクロロフィル含量、カロチノイド含量ともに若干の減少が確認された。第4葉に ついては処理後6日目において、クロロフィル含量、カロチノイド含量ともに大きく減少した。第3葉では白 化が現れ始める処理後3日目前後で展開が終了してしまうために白化が現れにくく、白化が現れ始める処理後3 日目前後から展開が始まる第4葉に顕著な白化が現れるのではないかと推測される。第4葉ではカロチノイド含 量とクロロフィル含量の変化がほぼ一致していた。ピラゾレート、ピラゾキシフェンはともにプラストキノンの 合成に関与する酵素(4-HPPD)を阻害することにより間接的にカロチノイドの合成阻害を引き起こすと示唆さ れており、第4葉においてはこの作用により結果的に白化が現れたものと考えられる。またこの間接的な阻害 作用が薬剤処理から白化症状の発現までに3日程度要することに関与していることも考えられる。現在P450阻 害剤共存下でのイネの生育阻害活性、害徴の発現時期等の比較、イネ、タイヌビエでのピラゾレート、ピラゾキ シフェンによるファイトエンの蓄積量の測定、ピラゾレート、ピラゾキシフェンが分解して生成される活性本体 の生成速度について検討を続けている。

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