ゾウリムシの行動制御遺伝子である
cnrC、cnrD遺伝子のクローニングの試み
       吉田 亜紀子    指導教官 高橋 三保子

【目的】 ゾウリムシは様々なイオンチャネルによって、環境に応じて多様な行動を示すため、生理学的にも注目されている。ゾウリムシの行動反応の代表的なものに回避反応がある。ゾウリムシが前方に向かって泳いでいる時、何か物にぶつかったり、薬物で刺激を受けたりすると、後方に泳ぐ。これは何か物にぶつかったりすることにより、それまで前方に進むように動いていた繊毛が逆転し、後方に向かって泳ぐようになるからである。今までの研究によってこの繊毛打の逆転にCa2+チャネルが関わっていることが分かっている。このCa2+チャネルは様々な遺伝子産物によって制御されていると考えられるが、その遺伝子産物や遺伝子については良く分かっていない。そこで、私はその回避反応を行わない行動変異体であるcnr突然変異体を利用しそれの遺伝子のクローニングを試みた。
【方法】 ゾウリムシには、前述したように回避反応を行わない行動変異体が存在する。この変異体は、内向きの電位依存性Ca2+電流が発生しないため、刺激に対して回避反応を示すことができない。この変異体はゾウリムシではcnr突然変異体、ヒメゾウリムシではpawn突然変異体と呼ばれ、cnrにはcnrA,cnrB,cnrC,cnrD突然変異体が、pawnにはpwA,pwB,pwC突然変異体が存在している。この行動変異体を利用して、Ca2+チャネルに関わっていると考えられるcnrC,cnrD遺伝子のクローニングをする。この方法はpwA突然変異体において成功している。ゾウリムシでは野生型のゾウリムシの核からDNAを抽出し、変異体の核にinjection (細い針で注入すること)すると、その変異体の形質が野生型に戻る。このことを利用し、野生型から得たDNAをcnrC,cnrD遺伝子を切断しないような制限酵素で切断し、それを電気泳動によって断片の大きさによって分け、それぞれの断片をinjectionすることでどの大きさの断片に目的のcnrC,cnrD遺伝子が含まれているのかを調べる。最初はおよそどのくらいの断片に入っているかを調べ、だんだん断片を絞っていく。そしてその断片をクローニングし、ORFを決定する。
【結果】 まず、cnr遺伝子を含む遺伝子断片を得るために、どの制限酵素がcnrC,D遺伝子を切断しないかを調べた。野生型のDNAをBglXba氓ナ切断し、それぞれをcnrC,cnrD突然変異体にinjectionした。Bglで切断した野生型のDNAをcnrC突然変異体にinjection した時変異体の形質は、injectionが成功した14匹のうち8匹が野生型に回復し(1日後)、3ヶ月程その形質は保たれたので、形質は野生型に変化したと言える。これはすなわちBglで切断した野生型のDNAに、形質転換に有効な断片が含まれることを示している。同じDNAをcnrD突然変異体にinjectionしたが、野生型には回復しなかった。BglcnrC遺伝子は切断しないが、cnrD遺伝子を切断してしまうのでこのような結果になったと考えられる。一方、Xba氓ナ切断した野生型のDNAをcnrC,cnrD突然変異体にinjectionした時はどちらも変異形質のまま変化がなかった。今後はBglで切断した野生型のDNAがcnrC突然変異体に有効であったので、引き続きcnrC遺伝子を含む断片を見つけていきたいと考えている。


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