新規高CO2誘導性タンパク質の誘導条件及び生理機能の解析
渡辺理子 指導教官:白岩善博
[背景・目的] 微細藻類は外界のCO2濃度変化に対して順化・適応する能力を有している。Low CO2(大気中のCO2レベル)条件下ではカルボニックアンヒドラーゼの発現に基づくCO2濃縮機構が誘導されCO2を効率的に利用する系が構築される。一方、微細藻類はHigh CO2(1% CO2以上)にも適応することができる。当研究室では既に、微細藻類の一種であるChlamydomonas
reinhardtii が High CO2条件下でH43と名付けた分子量43kDの糖タンパクを誘導することを見出している。cDNA−cloningの結果、データベース上にhomologyのあるタンパク質が見られず、H43は新規のタンパク質と考えられる。しかし、その分子特性及び機能は未解明であるため、本研究においてその機能解析を目的とした。そのため、まずChlamydomonasのH43誘導調節要因の解析、糖鎖合成阻害剤tunicamycin添加下での培養及び精製タンパクを用いたH43糖鎖の切断を試み、H43の機能解析のための基礎的知見及び抗体作成用試料を得ることにした。
[方法] (1)大量培養によるH43誘導の解析: Chlamydomonas
reinhardtii Dangeard 137c mt+株及びcell wall less mutantであるcw−15株をLow CO2条件下TAP(Tris-Acetate-Phosphate
medium)で数日間従属栄養的に生育させ、藻体を遠心(1600g,5min)により回収、HSM(High-Salt
medium)に懸濁し3%CO2を通気して独立栄養的に前培養を行った。12〜24h後、藻体を回収、大容量の培地に移し本培養を行った。任意の培養時間における細胞懸濁液の濁度(OD750)及びpHを測定後、細胞懸濁液から培地と細胞を分離し、細胞破砕することにより細胞内可溶性画分を分離した。これらの画分をSDS-PAGEにより分離し、H43の検出を行った。
(2) 糖鎖合成阻害剤添加下での培養:cw−15株を用い(1)と同様の手順で培養を行い、本培養開始時に細胞懸濁液250mlに対しtunicamycin(0.5mg)を添加した。
(3)H43糖鎖の切断:TFMS(TriFloroMethaneSulfonic
Acid)による化学的切断法とN−GlycosidaseA(ロシュダイアゴノスティック社)を用いた酵素法によるH43糖鎖の切断を試みた。
[結果・考察] (1)HSM培地では細胞の成長に伴って細胞懸濁液pHが低下し、TAP培地ではpHが上昇することが示された。この時、細胞懸濁液のpHとH43の誘導に特異性は見られず、pH非依存的にH43が検出された。(2)HSM培地とTAP培地のいずれからもH43が検出された。(1)と(2)より、H43はpH変化に関わらずHigh CO2条件下で誘導されることを見いだし、H43をHigh CO2誘導性タンパク質と判断した。(3)糖鎖合成阻害剤添加下で培養を行った結果、阻害剤非添加下で見られるH43の培地中への放出が見られなくなった。これは糖鎖がH43の合成または細胞外への輸送に深く関与することを示唆する。(4) TFMS処理の結果42kD及び38kD付近にバンドが検出されたが、いずれのバンドもレクチンとの反応性を保持したままであった。更にN−GlycosidaseAによる酵素処理では糖鎖が切断されなかったため、H43タンパク部分に特異的な抗体作成のためには除糖条件を更に検討する必要がある。