cre-loxPシステムによるHBV(B型肝炎ウィルス)の細胞内免疫による遺伝子治療

969014  大沢 涼子   指導教官:沼田 治



目的および、意義:
 cre-loxPシステムは、コンディショナルターゲティングが可能であるという点で近年、遺伝子治療などの分野で注目を集めている。私は東京理科大学の千葉丈教授、および大場先生らの指導のもとでヒト抗HBs抗体遺伝子による細胞内免疫によるB型肝炎ウィルス(以下HBV)キャリアの治療のモデル実験系を構築するための基礎実験を行った。
当研究室では以前にチンパンジーへのHBV感染を阻止することが証明されているヒト抗HBsモノクローナル抗体T6J(TAPC301-C14X6JC5)の単鎖可変部領域抗体断片(single chain Fv:ScFv)のcDNAをHBs抗原を分泌しているヒト肝癌培養細胞株(Alexander細胞)にトランスフェクションにより導入し、cre-loxPシステムによってその発現をオンにするとHBs抗原の分泌をほぼ抑制することが可能であることを明らかにした。cre-loxPシステムによって2つあるloxP配列間にはさまれた”ストップ配列”、G418耐性遺伝子(Neo)などの遺伝子がCre酵素による切り出しをうけて欠落し、T6JのScFvの発現がオンになった細胞株に、再び同位置にオンになるときに欠落した遺伝子群を入れ、元のオフの形に戻すことが可能であるのかを調べた。また、元に戻る効率はどの程度であるのかを調べ、遺伝子治療の基礎研究への応用を目的として今回の実験を試みた。

材料と方法:
  当研究室で以前に、Alexander細胞にcre-loxPのユニット、G418耐性遺伝子(neo)、T6JのScFv、BSD耐性遺伝子等を含むプラズミドベクターをトランスフェクションによって導入した細胞(pCALNLTS7KRB2-1細胞:G418耐性)を作成した。(大場先生)このうち、T6J遺伝子の発現をオンにするためにcreを発現させ、ストップ配列、G418耐性遺伝子、loxP因子をひとつ欠落させた細胞(pCALNLTS7KRB2-1DL5:ブラストサイジン耐性)を使用。Cre酵素により切り出されて失われた遺伝子のユニットをもつプラズミドベクターを4種類作成し、Cre酵素の遺伝子を含むプラズミドとのコトランスフェクションによって再びT6J遺伝子をオンにする前の、もとの状態の細胞に戻すことを試みた。

結果と考察:
  まず、始めにpTZLNL ( CAG promotor , loxP , neo<G418耐性となる> , loxPを持つ)、pTZLN ( CAG promotor , lox , neo ) , pTZLHL ( CAG promotor , loxP , ハイグロマイシン耐性遺伝子 , loxP ) , pLNL8 ( loxP , neo , loxP ) という4種類のプラズミドベクターを作成し、大腸菌内で増幅させ、精製したものをそれぞれCre酵素を発現するpXCANCreというプラズミドベクターとともに様々な条件下でコトランスフェクションし、それぞれのクローンを得ることができた。これらの得られた細胞は、トランスフェクション前にはブラストサイジン耐性であったが、トランスフェクション後にneo遺伝子の発現によりG418耐性になったものである。これらの細胞は、pCALNLTS7KRB2-1細胞と同じ特性をしめしており、これらの解析を進めていった結果、cre-loxPシステムによってオンにしたものを再びオフの状態に戻すことが可能であることが予測できた。4種類のプラズミドごとに得られたクローン数を条件ごとに比較し、その結果、再組み込みのおこる最適の条件はpXCANCREと目的遺伝子を含むプラズミドを1:100の割合でコトランスフェクションしたとき、最も多くのクローン数を得ることができた。また作成した4種のプラズミドのうちでloxP配列をひとつだけ含んでいるpTZLNというものを使用したときに最も多くのクローンが得られた。この結果からloxP因子がひとつであれば、オンになった細胞をもとのオフの状態に戻すことが比較的効率よく行えることが推測される。また、得られたクローンの解析を行い、コトランスフェクションを行ったことにより、目的位置に目的の遺伝子が導入されていることが推測できる結果を今回の実験系で得ることができた。


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