細胞性粘菌の有性生殖に関わるGP138 遺伝子 群
       の多様性と交配様式 
                清宮 啓嗣   指導教官 漆原  秀子

(目的)我々の研究室では細胞性粘菌を用いて有性生殖の分子機構の解明を 行っている。細胞性粘菌 Dictyostelium discoideum はマクロシストと呼ば れる休眠構造を形成する有性的生活環と、子実体を形成する無性的生活環の二つの生 活環を持つ、単細胞真核生物である。本研究室ではKAX3株のマクロシスト形成の際に 膜表面に現れ、細胞融合に関与していると思われる糖タンパク質の gp138 を同定し 、それをコードしているGP138 遺伝子群の解析を行っている。またD.dis coideum の異なる交配様式の株で gp138 タンパクの多様性と交配様式の相関が 研究されている。それによるとヘテロタリック(交配型は mat a mat A)の株とバイセクシャルの株には gp138 が検出されたが、それ以外のホモタ リックの株とアセクシャルの株には見られないという結果が示されている。今回 D.discoideum におけるGP138 遺伝子のホモログの分布を解析し、この 遺伝子群の多様性と交配様式の相関についての研究を行った。

(方法)実験材料として細胞性粘菌 D.discoideum の以下の7系統の 株を使用した。
    HM1, NC4(ヘテロタリック)、AC4, ZA3A(ホモタリック)
    WS112B, WS2162(バイセクシャル)、WS584(アセクシャル)
これらの粘菌からゲノムを抽出しEcoR氓ニXba氓ナ酵素処理してKAX3 株 GP138C cDNAをプローブにしてサザンハイブリダイゼーションを行った。 また GP138 各遺伝子に特異的なプライマーを用いてPCRを行い、各遺伝子 の存在を調べた。

(結果と考察)サザンハイブリダイゼーションの結果は以下の通りであった 。HM1, NC4( ヘテロタリック)においてXba氓ナは5本、EcoR氓ナは 3本の同じ大きさのバンドを検出。AC4, ZA3A(ホモタリック)においてはXba氓ナは3本、EcoR氓ナは5本の同じ大きさのバンドを検出。つまりヘテロタリ ック同士、ホモタリック同士のバンドのパターンは同じであった。これに対して WS 112B, WS2162 のバイセクシャルの株では、バンドは検出されたがそのパターンは株 同士で異なっていた。アセクシャルである WS584 にもバンドが一本検出された。 ま た GP138 C 由来のプライマーを使用したPCRを行った結果は、アセクシャル の株である WS584 以外の株全てからバンドが検出された。以上のことから次のよう なことが考えられる。サザンハイブリダイゼーションの結果によれば、交配様式に関 係なく GP138 遺伝子が存在していることが確認された。特に同じ交配様式 ではバンドのパターンが同じなので、GP138 は保存性が高く重要な遺伝子だ と言える。しかしこの遺伝子は有性生殖の際に膜表面に現れるので細胞の融合に関与 すると考えられていたが、アセクシャルの株でもバンドが検出されるのでこれ以外の 機能をもつことが推測される。またPCRにおいてはアセクシャルの株に GP138C のバンドが見られなかったことから、この株はプライマー部位が異なる配列であ る GP138 遺伝子を持つと考えられる。今後は、すでに配列がわかっている 株の GP138 遺伝子と他の株から単離した遺伝子の比較をしたり、 GP13 8C 以外の遺伝子でPCRを行い、更に知見を深める予定である。


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