安達祐介 指導教官:神戸敏明
[はじめに] ポリブチレンサクシネート(PBS)はコハク酸と1,4-ブタンジオールの重縮合反応により合成される脂肪族ポリエステルである。また、環境中で微生物の働きによって分解される生分解性プラスチックの一種であり、その優れた特性から将来性の高い素材として期待されている。PBSは土壌中で微生物によって分解を受けるため、コンポスト化による効率の良いリサイクルが考えられている。コンポスト中では廃棄物(生ごみ、枯草など)と多くの分解微生物が作用するため、熱を発生し、高温(50〜80℃)になることが知られている。 そのため、高温下でPBSを分解可能な微生物についての知見を得ることは、PBSの集約的処理に役立つことと考えられる。これまでに当研究室で取得されたBacillus sp. HBS-5株は55℃の高温下で固体のPBSを強力に分解する好熱性細菌である。PBSを高温下で分解する菌の報告はいくつかあるが、固体のPBSを分解する菌の報告はHBS-5のみである。また、それら分解菌の持つPBS分解酵素や、遺伝子についての報告は現在までなされていない。そこで本研究では、HBS-5株の高温下でのPBS分解特性を明らかにするため、分解酵素遺伝子のクローニングを行い、その塩基配列の解析を行った。
[方法]
1.培地及び培養条件 形質転換体の培養には、LB平板培地上に乳化PBSを重層した平板培地を用いた。培養は37'℃で行った。
2.クローニング HBS-5株の全DNAを制限酵素Sau 3ATにて部分分解し、2-5kbのDNA断片を回収した。これをpUC18のBam HTサイトに挿入して、E.coli DH5α株に導入した。得られた形質転換体を、PBSを乳化させたLB培地に塗布し、コロニー周辺にクリアゾーンを形成する株を検索した。
[結果及び考察]
2500株の形質転換体をPBS乳化培地上で培養したところ、クリアゾーンを形成する株が4株得られた。これらの保持するプラスミドについて制限酵素解析を行ったところ、すべてに共通する部分が認められた。塩基配列を決定した結果、一つのオープンリーディングフレーム(ORF)が認められ、これがPBS分解酵素をコードすると考えられた。 PBS分解酵素遺伝子と推定されるORFについて相同性検索を行ったところ、本遺伝子はアミノ酸配列、及びDNA塩基配列のレベルにおいて、Bacillus
thermocatenulatus 及び、Bacillus stearothermophilus L1株由来のリパーゼと極めて高い相同性を有していることが判った。 しかし、相同性を示したいくつかのリパーゼ遺伝子と本遺伝子の塩基配列を詳細に比較したところ、本酵素遺伝子では他のリパーゼの開始コドンに相当する部分で約20bpの塩基配列が欠落していた。そこで推定開始コドン付近のDNA配列をプライマーとしてHBS-5株の全DNAより開始コドン付近の配列をPCRを用いて増幅し配列を確認した結果、そのような欠失は見られなかった。クローニングで得られた4株のうち,塩基配列を決定していなかった残りの3株についても同様に配列を決定したが,同じ部位で同様の欠失が認められた。欠失領域には,その直後の配列と重複する配列があり,この重複配列が存在することでクローニングの際に欠失が起こったのではないかと考えられる。