ショウジョウバエ卵の極細胞質に局在する新規RNAをコードする遺伝子の構造および機能解析

                          970807 雲内 浩平

  指導教官 小林 悟

 多くの動物において、卵の一部の細胞質(生殖質)中には、生殖細胞の形成に必要十分な因子が含まれていることが知られている。ショウジョウバエの生殖細胞は発生初期の卵の後極に形成される極細胞に由来する。その極細胞の形成に必要な因子は卵の後極の極細胞質(生殖質)中に局在している。この極細胞形成に必要な因子を単離するために、本研究室の二宮らは、極細胞質から抽出した母性RNAを鋳型としてcDNAライブラリーを作製し、個々のcDNAをプローブとしてin situ hybridizationを行うことで、極細胞質に局在する新規母性RNAに対するcDNAを7種類単離した。

 これらcDNAのうち1種類について、本研究室の山方によって解析が行われた。その結果、このcDNAは、胚中に存在する少なくとも2種類の転写産物とhybridizeすること、長いほうの転写産物は胚発生を通して胚中に検出されるのに対し、短いほうの転写産物は極細胞が形成される時期まで検出され、その後消失することが明らかとなった。

 本研究では、このRNAの極細胞形成過程における機能を明らかにすることを大きな目標として、まず、このRNAがコードされる遺伝子の構造と、この遺伝子によりコードされるRNAの各胚発生段階における局在について調べた。

結果

1. この遺伝子から転写される2種類のRNAの長さは、約4.0 kbと6.0 kbであることが明らかとなった。

2. すでに、単離されていたcDNAの塩基配列を決定し、ゲノム塩基配列と比較することにより、この遺伝子は、少なくとも1つのintronと2つのexonから構成されることがわかった。

3. この遺伝子中の数カ所をプローブとして、Northern blottingを行った結果、2種類の転写産物の構造は5'側が共通で、3' 非翻訳領域(3' UTR)が異なっていることが明らかとなった。

4. 2種類の転写産物は、約270アミノ酸からなる新規のタンパク質をともにコードしていることが予想された。

5. 長い方の転写産物に特異的なプローブと2種類の転写産物に共通するプローブを作成し、各発生段階の胚に対するin situ hybridizationを行った。その結果、両者のプローブに共通して、初期胚の極細胞質に強いシグナルが観察され、極細胞が形成された後そのシグナルは消失す_驍アと、胚発生の後期にはシグナルが神経などの多くの組織で観察された。この結果からは、短い転写産物の分布は不明であるが、Northern Blot 解析により短い転写産物が極細胞形成以前の胚でのみ検出されることから、この母性RNAは極細胞質に局在すると考えられる。一方、長い母性RNAは、極細胞質に局在するが、発生の後期になると体細胞でもzygoticに転写されると考えられる。

今後の予定

 現在、この遺伝子の機能を探るため、この遺伝子の近傍に挿入されたP-因子(トランスポゾン)を利用して、この遺伝子の一部を欠いた突然変異を作成中である。