酸化ストレスによる破骨細胞の分化誘導作用に関する研究
緒 方 訓子 指導教官:坂本 和一
【導入・目的】 破骨細胞は、造血幹細胞より分化した前駆細胞の融合により成 熟する多核体で、骨表面上に接着して酸やタンパク質分解酵素を放出して骨を溶かし 、カルシウムを遊離する働きを持つ。骨は、骨芽細胞による骨形成と、破骨細胞によ る骨吸収によって、古い組織から新しい組織に絶えず置き換えられている(骨のリモ デリング)。通常は骨形成と骨吸収のバランスが保たれて一定の骨量を維持しており( カップリング)、骨形成と骨吸収のカップリングは、骨芽細胞と破骨細胞の分化に関 わるホルモン、局所性サイトカインによる調節機構の制御下におかれている。カップ リングのバランスが崩れると、骨形成量が多い場合は大理石骨病になり、反対に骨吸 収量が多いと骨粗鬆症になってしまう。
骨粗鬆症の中で、加齢に伴う生体内環境の変化が原因で発症するものが、老人 性骨粗鬆症と呼ばれていること、また、破骨細胞自身が過酸化水素(H
2O2)を産生していることが知られているが、その 機能は不明であることから、筆者は、老化の原因の一つである酸化ストレスが骨粗鬆 症を引き起こす一因となるのではないかと考えた。本研究では、活性酸素の中でもH2O2に重点を置き、破骨細胞の分化 に及ぼす作用やその機構を明らかにすることを目的とした。【方法】 マウスの大腿骨および脛骨から骨髄細胞を調製し、SephadexG-10カラ ムを通して間質細胞およびマクロファージ細胞を取り除き、造血幹細胞を単離した。 ここに破骨細胞の分化に必要な2種類のサイトカイン:M-CSF(Macrophage-Colony St imulating Factor)、RANKL(Receptor Activator of NFκ-B Ligand)を一定濃度で加 えて破骨細胞に分化させた。培養するにあたり、(1)培養開始時に異なる濃度のH2O2の添加(0,1,50,100,200μM)、(2 )H2O2100μMの時期を変えての添加(培 養開始0,12,24,48,72,96,120時間後)、(3)H2O2100μM添加6時間後にcatalaseの添加(400U/48穴well)、など酸化スト レスに関する環境を変化させて6日間培養を行った。培養した後、TRAP(酒石酸耐性 酸性フォスファターゼ)染色溶液で破骨細胞を特異的に染色し、分化した破骨細胞の 形態や数を観察し、酸化ストレスが破骨細胞の分化に与える影響を調べた。染色した 破骨細胞は、撮影後一定視野あたりの数や直径を測定し、さらにそこから破骨細胞面 積の平均を計算して破骨細胞の成熟度を評価した。
【結果と考察】 今回の実験により、H
2O2が100μMまで濃度依存的に破骨細胞の分化を促進する働きを持つこと が明らかとなった。さらに、catalaseを加えることにより、H2O2の添加で促進される破骨細胞の分化が抑制され た。従って、H2O FONT>2は造血幹細胞に作用 して、破骨細胞への分化を促進することが明らかになった。また、H2O2が分化誘導に作用するのは、培養開始0,12,24 時間後であり、それ以後(培養開始48,72,96,120時間後)に添加すると、逆に破骨細胞 形成を抑制する作用を示した。興味深いことに、活性酸素の中でもNOは、破骨細胞の活性の抑制に働くという 報告がある。このことから酸化ストレスは一概に骨粗鬆症の原因であるとは言えず、 今後はH
2O2とNOが、それぞれ破骨細胞 分化のシグナル経路のどの部分に作用するかや、遺伝子発現の違いを調べていくこと で、酸化ストレスと骨粗鬆症の発症メカニズムの関係を明らかにしていく予定である 。