神経細胞分化における大豆イソフラボンの作用
木村桃子                                                      責任教官:桑原朋彦
 
【導入・目的】わが国をはじめアジア諸国では古くより大豆製品が摂取されているが、近年大豆の摂取量と種々のがんの罹患率が負の相関を示すことが報告され、健康に対する大豆の効果が注目を集めている。イソフラボンは、その化学構造が天然の女性ホルモンであるエストロゲンに類似していること、またエストロゲン作用に影響を与えることから植物性エストロゲンといわれ、内分泌撹乱物質の一つに挙げられている。大豆には、ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテインの3種類のイソフラボンが含まれており、これらはエストロゲン受容体(ER)に対し親和性を示す。これまで動物実験や細胞レベルでイソフラボンの乳がんや前立腺がんなどの抑制作用、血中コレステロール低下作用、骨量減少抑制作用などが報告されている。最近では、植物性エストロゲンが脳由来神経栄養因子(BDNF)のmRNA活性を上げたり発生段階の脳において軸策や樹状突起の分化を促進させるなど、神経細胞分化や神経伝達に影響を及ぼすことが報告されている。そこで本研究では、神経細胞分化のモデルとしてラット副腎髄質褐色腫細胞であるPC12を用いて大豆イソフラボンが神経細胞分化に及ぼす影響を調べた。

【材料と方法】実験材料として、大豆イソフラボンであるダイゼインとゲニステイン、動物細胞はヒト乳がん由来乳腺上皮細胞(MCF-7)とラット副腎髄質褐色腫細胞(PC12)を用いた。まず、イソフラボンのエストロゲン作用を調べるためにMCF-7を用いてE-Screen法を行った。次に、イソフラボンが神経細胞分化に与える作用について調べるため、PC12の神経分化マーカーであるAcetlycholinesteraseAchE)の活性を調べた。

【結果】E-Screen法においてダイゼイン、ゲニステインともコントロールより高い活性を示した。活性は濃度依存的に増加し、1.25uMで最大値を示した。AchE assayでも同様にコントロールと比較して処理群で高い活性がみられたが、0.08uMで活性値は最大であった。

【考察】MCF-7ERレベルが高く、エストロゲン投与により細胞増殖が促進されるなどのエストロゲン応答性を示す。ダイゼイン及びゲニステインがMCF-7の活性を上げたことからエストロゲン作用を有することがわかった。これは、イソフラボンの化学構造がエストロゲンと類似しており、ERに対し親和性を示すためだと考えられる。PC12は神経成長因子(NGF)によって神経繊維を伸ばし、交感神経様になる。NGFで分化させたPC12においてダイゼインとゲニステインにより神経細胞分化活性が増加した。今後はエストロゲンのアンタゴニストであるタモキシフェンでERをあらかじめブロックして同様の実験を行い、イソフラボンによる神経分化促進機構がERを介しているかどうか確認する予定である。