ヒメダカの生殖に及ぼす内分泌攪乱物質の影響
――特に各成長段階における影響の違いについて――
櫻田 清成 指導教官 桑原 朋彦
[目的] 全国の河川水からはエストラジオール換算で10 ppt程度のエストロジェン活性が検出されており(建設省・環境庁調査)、魚類への内分泌系を介した影響が懸念されている。そこで本研究では環境庁が絶滅危惧種に指定したメダカを用いて各成長段階で暴露し、成長抑制、二次性徴発現抑制、性転換率および交尾行動、産卵数や受精率への影響等を明らかにする事を目的とした。
[材料と方法]供試生物のメダカは市販のヒメダカ(Oryzias latipes)および名古屋大学から譲渡された雌雄(遺伝子型)を形態的に区別できる系統(dr-R系)を用いた。それらは国立環境研究所で維持・繁殖している個体である。試験物質にはEE(Ethinyl-estradiol)とE2(17β-estradiol)(和光純薬工業製、98.0%以上)をアセトンに溶かした後用いた。
(1)性転換試験(雌化試験):drR系統の稚魚に試験物質を孵化直後から2週間(雄の性決定時期)暴露し、清浄水中で飼育した。体色で遺伝子型が判別できる大きさになった時点で遺伝的雄個体だけを分別し、さらに性成熟サイズまで飼育した後に形態を調べて表現型雌雄の判別を行った。判別に用いた形態は尻鰭の形、乳頭状突起の有無と数、軟条節数、背鰭の形、UGP(泌尿生殖隆起)の形などで、さらに腹部を軽く押さえた時精子が出るかどうかも判断材料とした。
(2)成長抑制試験:孵化後2週間目から2週間試験物質を暴露した。暴露前、暴露後さらに暴露終了2週間後に生体重を測定した。体重変化から成長速度を計算して暴露濃度との関係をみた。
(3)二次性徴抑制試験:体長約16 mmの性成熟前の幼魚に2週間暴露し、(1)と同様に形態を観察し、二次性徴が抑制されたかどうかを調べた。
(4)生殖・繁殖抑制試験:成魚に試験物質を2週間暴露し、暴露中および暴露後の受精率、産卵数及び性行動を観察した。性行動の観察用ガラス水槽4個に雌雄1対のメダカを各水槽に入れ、4つの水槽を同時に1台のビデオカメラで撮影した。撮影は自然光が入らない部屋で行い、各水槽の直上にライトボックスを設置して1日14時間照明した。撮影は点灯直後から開始し、4水槽すべての雌が産卵するまでもしくは点灯後3時間までおこなった。
[結果と考察]
(1)性転換試験(雌化試験):drR系メダカを0、10、100 ppt 濃度のE2に暴露した結果、暴露した遺伝的雄個体の内0および10
ppt では雌化した個体はなかったが、100 pptでは23個体中すべての個体が雌化した。
(2)成長抑制試験:drR系メダカを0、6.25、12.5、25、50、100 ppt濃度のE2に暴露し、暴露前、暴露後、さらに暴露終了2週間後に生体重を計測した結果、高濃度になるにつれ、成長速度における雌雄差が大きくなり、特に高濃度(100 ppt)では雄の成長が強く抑制され、逆に雌の成長は促進されるということが示唆された(図)。
(3)二次性徴抑制試験:drR系メダカにE2を暴露し性成熟サイズまで長日条件で飼育した後雄の2次性徴を調べた結果、対照区および10
ppt 暴露ではすべての遺伝的雄個体が雄特有の性徴を示したのに対して、100 ppt 暴露区では、雄の性徴を示したのは17個体中1個体だけであった。
(4)生殖・繁殖抑制試験:ヒメダカを100、1000 ppt濃度
のEEに2週間暴露し、受精率、産卵数、性行動を観察した
結果、成魚におけるEE暴露による生殖、繁殖への抑制効果
はみられなかった。
メダカの各成長段階で暴露して影響を見たが、性転換、成
長抑制および二次性徴阻害のそれぞれはE2およびEEとも
に濃度100 pptで明らかな影響を及ぼし、また10 pptでは成
長を除いては影響が見られなかったが野外では30 pptを越え
るエストロジェン活性が報告されており、野生メダカ個体群
図 E2暴露したメダカの成長速度 ●♀ ○♂
に及ぼす悪影響が推察された。