ゼブラフィッシュSix4遺伝子の感覚器プラコード特異的な発現制御領域の探索

 鈴木隆史    指導教官:山本雅之   責任教官:鈴木隆久

<背景と目的>

 鼻、耳などの脊椎動物感覚器は、それぞれ特有の形態や機能を持つが、その形態発生はいずれも中枢神経系の誘導による頭部表皮外胚葉の肥厚から始まる。この肥厚した表皮外胚葉をプラコードとよぶが、その形成機構の分子メカニズムは明らかでない。ゼブラフィッシュSix4遺伝子は、原腸胚期後期に神経板の縁をなぞるような形でストライプ状に発現する。その後、この発現は外胚葉の肥厚とともに感覚器プラコードに限局されていき、各感覚器が独自の分化を始めた後も維持される。このような発現パターンから、Six4遺伝子は感覚器形成に関与していると予想される。Six4の翻訳開始点上流7.7 kbの遺伝子領域に緑色蛍光蛋白質GFP遺伝子をレポーターとして接続した構築(7.7kGFP)をゼブラフィッシュ1細胞胚に注入したところ、感覚器プラコードでGFPによる発光が観察された。このことから、感覚器プラコード特異的な発現を制御する領域が上流7.7 kbに存在すると予想された。そこで、感覚器プラコード特異的な発現を規定する転写因子の同定を目的に、上流7.7 kbの遺伝子領域に存在するシスエレメントの同定を試みた。

<実験方法と結果>

図1GFPレポーター解析

 Six4遺伝子の翻訳開始点上流7.7 kbを遠位より順に削った構築の一群を作製し、鼻プラコードにおける発現を指標としたGFPレポーター解析を行った。翻訳開始点上流3.7 kbまで削った構築(3.7kGFP)を注入したゼブラフィッシュ胚ではGFPの発現が観察されたが、3.2 kbまで削った構築(3.2kGFP)では鼻プラコード特異的なGFPの発現が観察されなかった。このことは、特異的エンハンサーが間の0.5 kb の領域に存在することを示唆する。実際に3.2kGFPとこの0.5 kbの断片をゼブラフィッシュ胚に共注入したところ、鼻プラコードでのGFP遺伝子の発現が再現された。(図1左)一方、7.7kGFPを染色体に安定に組み込んだトランスジェニック系統の樹立に成功した。このトランスジェニックフィッシュ胚では、GFPが鼻(赤矢尻)や耳プラコード(黄矢尻)において特異的な発光を示した。(図1右)


<結論>

 私はゼブラフィッシュを用いたGFPレポーター解析により、感覚器プラコード特異的なエンハンサーを含む0.5 kbの領域を同定した。また、感覚器特異的な発光を示すトランスジェニック系統を作製した。今後は、この系統とセルソーターの利用により、Six4遺伝子を豊富に発現している細胞をGFP陽性細胞として選択的に収集できるので、上記エンハンサーに結合する転写因子の単離を目指す。