なぜ寄生蜂は捕食寄生者なのか?

鈴木 ゆかり 指導教官:徳永 幸彦 責任教官:藤井 宏一

はじめに

寄生には、宿主を殺さず、養分を吸収する寄生(parasite)と、最終的に宿主を殺す捕食寄生(parasitoid)が存在する。後者の例として、寄生蜂があげられる。寄生蜂が寄主を殺すことは、「毒性の高い寄生者(parasitoid)は宿主に適応し、より無害な寄生者(parasite)に進化する」、という説と矛盾する。では、寄生蜂には、なぜ捕食寄生者が多いのだろうか?
筆者は寄生蜂の特徴である、遺伝様式の半数倍数性(haplodiploidy)と、卵の性の産み分け(sex allocation)を組み込んだ、数理モデル(寄生蜂モデル)を構築し、C言語により計算を行った。捕食寄生と寄生の形質どちらにも進化できる状況で、寄生蜂のモデルは、どちらの形質に進化しやすいのだろうか。また、比較として、遺伝様式が倍数性(diploid)である寄生者のモデルについても計算を行った。

寄生蜂モデルの概要

このモデルで登場する寄生者と宿主は、それぞれ二つの表現型を持っている。寄生者の表現型は、宿主を殺さない寄生者と、宿主を殺す捕食寄生者、宿主の表現型は、宿主を殺さない寄生者を殺す抵抗性を持つ宿主と、すべての寄生者に寄生される感受性の宿主である。全体の流れは、まず、寄生蜂が無作為に交配し、卵を宿主に産み付ける。卵の分布は一様分布である。卵の表現型と宿主の表現型の組み合わせによって、生存か死亡かが決定する。生存できた卵は羽化できる。生き残った宿主は無作為に交配し、卵を産む。この、羽化した寄生者と宿主の卵が、次世代の寄生者と宿主となる。これを捕食寄生の形質を支配する遺伝子の頻度の変化がほぼなくなるまで(前回の頻度との差が10-6となるまで)繰り返す。遺伝様式が半数倍数性の場合と倍数性の場合の捕食寄生遺伝子の頻度の増減を比較することにより、半数倍数性の捕食寄生への進化傾向を調べた。

寄生蜂モデルの設定

このモデルでは、形質と産卵数(体サイズ)の間のトレードオフを設定した。抵抗性をもつ宿主にはコストがかかり、体サイズが小さくなり、産卵数が減少するとした。捕食寄生をする寄生蜂も、コストがかかり、産卵数が減少するとした。他に、抵抗性をもつ宿主から羽化した寄生蜂は、栄養不足により、産卵数が減少するとした。また、寄生蜂は体サイズの小さい宿主に雄を産卵することが知られているため、卵の性の産み分けを考慮に入れる場合、抵抗性のある小さい宿主に、雄の卵を産卵すると設定した。

結果と考察

半数倍数性で性の産み分けをしないものと倍数性の比較では、倍数性の方が、捕食寄生への進化傾向が強かった。しかし、半数倍数性で性の産み分けをするものは、倍数性よりも捕食寄生への進化傾向が強く、たとえコストがかかったとしても、捕食寄生者へと進化した。このモデルの仮定が正しいのであれば、寄生蜂は、半数倍数性と卵の性の産み分けによって、捕食寄生への進化傾向が強いと予測できる。