酸化的ストレスによるmtDNA損傷の生成と修復

 

田中 正博                       指導教官:林 純一

 

【序論】 真核生物のオルガネラの一つであるミトコンドリアは,独自のミトコンドリアDNA(mtDNA)を保持しており、核DNAと協調してミトコンドリア内部において生体内のエネルギーであるATPの80%以上を生産している.このATP生産の過程でミトコンドリア電子伝達系から細胞にとって有害な活性酸素が発生し,細胞内の様々な個所に障害を与えることがある.活性酸素が核DNAに損傷を与え,その結果,細胞死や突然変異をもたらすことはすでに知られているが,それ以上に,mtDNAにも損傷を与えることがわかってきた.

我々の体内でも,日々の生活において活性酸素による酸化的ストレスがmtDNAに損傷を与えており,その損傷が人の健康に対して深刻な影響を与える可能性がある.したがって,酸化的ストレスがmtDNAに与える影響を明らかにすることは非常に重要である.

 

【目的】 

本研究では,活性酸素が処理濃度・処理時間によってmtDNAにどのような損傷を与えているのか,また先行研究よりmtDNA損傷が修復することがわかっているが,処理後経時間経過とともにmtDNA損傷はどのように修復するのか,さらにmtDNA損傷が細胞の機能にどのような影響を及ぼすのか解析をおこなった.

 

【方法】 マウス培養細胞(B82 CAP)に過酸化水素を処理することによって,活性酸素を発生させmtDNAの損傷を調べた.mtDNAの損傷は抽出したDNAを制限酵素(EcoR T

)で処理し,中性・変性両方のサザン・ハイブリダイゼーションで解析することでmtDNAを単鎖と二重鎖それぞれにおける損傷を調べた.処理後時間経過によるmtDNA損傷の修復の解析には,処理後BUdR・FUdRを取り込ませたDNAをCsCl溶液中で超遠心することによって解析をおこなった.また,細胞のO消費を調べることで細胞の機能を調べた.

 

【結果】 処理後mtDNAに単鎖切断・二重鎖切断がともに生成しており,さらに時間経過とともにmtDNAのコピー数が回復していることがわかった.このコピー数の回復はmtDNAの複製とmtDNA損傷の修復によるものと考えられる.そこでCsCl溶液中でDNAを超遠心させることにより,このmtDNAコピー数の回復はmtDNAの修復と複製によるものであることがわかった.細胞のO消費を調べた結果,mtDNAは損傷をうけた後,修復・複製によりそのコピー数を回復させているにもかかわらず,細胞自体の機能には変化がみられなかった.