微生物由来ゼラチナーゼインヒビターのスクリーニング
指導責任教官 神戸 敏明
都築 克彦(970847)
<緒言>
matrix metalloproteinases(MMP)とは細胞外マトリックス(コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、プロテオグリカンなど)を基質として分解する酵素の総称であり、細胞内には基質特異性の異なる数種類のMMPが存在することが知られている。近年、がんの浸潤、転移などに関するプロテアーゼとしてMMPが注目されてきており、医薬品としてのMMP阻害剤のニーズが高まってきている。しかし特定のプロテアーゼをターゲットとした阻害剤の報告は少ない。基質特異性の高い有効なMMP阻害剤が開発されれば、今後臨床の場で大いに活躍することが期待されている。
将来、医薬品として大規模生産を行うことを考えれば、大量培養の可能な微生物を用いることが有効である。そこで本研究ではMMPの一種であるゼラチナーゼをターゲットとして、その阻害剤を生産するする微生物を検索することを目的とした。
<材料及び方法>
1.スクリーニング及培養方法
全国各地(主につくば周辺)から採取した土壌を生理食塩水に懸濁、希釈後、50mg/lのナイスタチンを含むnutrient broth(NB)平板培地に塗布し、30℃で2日間培養を行った。平板培地上に生育したコロニーを、1.6mlのNB培地を加えた24穴培養プレートに植菌し、30℃で一晩振盪培養を行った。
培養液のうち1.0mlをマイクロチューブに移し、100℃で5分間加熱殺菌した後、5分間遠心を行った。菌体を除去し培養上清を得た。培養液の残りの0.6mlには80%グリセロールを0.2mlを加え-30℃で凍結保存した。
2.ゼラチナーゼ阻害活性測定の方法
ゼラチンを含むSDS-ポリアクリルアミドゲル(10%アクリルアミド)を作成し、sample buffer(100ml:BPB,20mg;グリセロール,40ml;SDS,3.0g;C溶液(×4),12.5ml)と3:1の割合で混合したゼラチナ−ゼ溶液を電気泳動に供した。
泳動後のゲルを2.5%TritonX-100で15分洗浄し、液を入れ替えてさらに15分洗浄した。その後SDSが除去されるまでincubation buffer(×1)(g/l):Tris,6.052;塩化カルシウム,0.555:で洗浄した。洗浄後のゲルに、1で得た4、5種類の培養上清を1ml添加し、37℃で一晩緩やかに振盪した。
取り出したゲルを、gel staining solution(1000ml):CBB,0.5g;イソプロピルアルコール,250ml;酢酸,100ml;イオン交換水,650ml:中で37℃で1時間振盪し、ゲルに含まれるゼラチンの染色を行った。さらにgel destaining solution(1000ml):メタノール,100ml;酢酸,100mlイオン交換水,800ml:中で37℃、1時間振盪し、脱色を行った。
3.バンドの判定
阻害剤の非存在下では、ゼラチナーゼの働きによりゲル中のゼラチンが分解されるため、ゼラチナーゼ周辺が透明に脱色されバンドとなって現れる。一方、阻害剤の存在下では、ゼラチンが分解されずバンドが消失する。用いたゼラチナーゼ溶液では、分子量の異なる3本のバンドが見られるが、それらのバンドの太さの減少量により阻害度を半定量的に判定するザイモグラフィーという手法を用いた。
<結果及び考察>
現在までに約600菌株の培養を行い、阻害活性の確認を行ったが活性を示すものは見られなかった。但し7サンプルにおいてゼラチンゲル全体の色が薄くなった。これらのサンプルをオートクレーブ処理したところこのような現象が見られなくなったことから、これらの菌株は培地中にゼラチナーゼを分泌しているということが考えられる。また、菌体がゼラチナーゼを分泌しているということはその阻害剤も菌体内に保持している可能性もあると考えられる。そこで、現在これらの菌について培養条件などを変えて阻害活性の測定を行っているところである。
また、スクリーニングの段階でターゲットを絞るために、培地成分の検討も行っているところである。