糸状菌Fusarium oxysporumの異化型硝酸塩還元酵素の精製と性質
中村 直人 指導教官 祥雲 弘文
<目的>
元来、脱窒反応は原核生物に固有の能力と見られてきたが、当研究室において真核生物でも 脱窒能を持つものがあることが確認された。カビの一種である糸状菌Fusarium oxysporumで硝酸塩から亜酸化窒素を生じる脱窒活性が見られた。脱窒とは、硝酸塩、亜硝酸塩等の酸化窒素化合物が脱窒菌の働きによって亜酸化窒素や分子状窒素に還元される現象である。脱窒は窒素の循環において重要な位置を占め、地球環境の恒常性の維持に寄与している。
硝酸塩から亜硝酸塩に還元する硝酸塩還元酵素については、バクテリアについて研究が進んでおり、同化型硝酸塩還元酵素(Nas)、異化型硝酸塩還元酵素(Nar,Nap)などがある。一方、真核生物では真菌、植物の同化型硝酸塩還元酵素(NR)が知られている。これらの酵素は全てその活性中心にモリブデンを持つ。大腸菌のNarは3つのサブユニットからなり、これまでの研究で真核生物のNarも2つか3つのサブユニットからなることが考えられ、その活性中心にもモリブデンを持つと考えられている。そこで当研究では、モリブデンによるNarの安定化と、可溶化段階での界面活性剤や培養段階での炭素源の検討を行った。
<方法>
実験はいずれも、脱窒条件下で培養したF.oxysporum MT-811株を酸化アルミニウムで破砕し、それを遠心分離により粗酵素液を得た。これを界面活性剤で可溶化し超遠心分離によって可溶化酵素を得た。また、活性測定には生理的電子供与体であるユビキノールまたは人工的電子供与体のメチルビオロゲンを使用し、亜硝酸の定量は比色定量により測定した。
1) 3つの異なる炭素源(グリセロール、グルコース、クエン酸)を用いてF.oxysporum の培養を行い、生長及び硝酸塩還元酵素の発現の違いを検討した。
2) 3つの異なる界面活性剤(Triton-X100,オクチルグルコシド、オクチルチオグルコシド)を用いて可溶化の検討を行った。それぞれについて可溶化率、比活性を測定した。
3) 精製段階でのサブユニットのかいりによる失活を抑えるため、可溶化段階においてモリブデン、硝酸塩を添加し、時間経過と比活性の関係を調べた。
<結果と考察>
炭素源の検討において、クエン酸だけが菌体の生長が遅くその菌体量は他に比べて70%程であった。他の3つに関しては菌体量、比活性において差異は見られなかった。可溶化の検討においては、可溶化率の最も高かったのはTriton-X100であり、比活性ではオクチルグルコシドが最も高かった。またモリブデンと硝酸塩を添加した場合に比活性が添加なしより高かった。今後界面活性剤については可溶化率、比活性が共に高かったオクチルグルコシドを用い、その際モリブデンと基質である硝酸塩を加えることでカラムにかけた際の失活が以前より抑えられると考えられる。以後はF.oxysporumのNarの完全精製によるその性質の解明が期待される。