DNA損傷後のDNA-PKとKu70の局在変化と機能解析
指導教官:三輪 正直(基礎医学系)
発表者:970858西川 ゆかり
目的)DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)はKu70, Ku86とともに複合体を形成し、DNA二重鎖切断修復機構に重要な働きをしている。細胞が電離放射線などによりDNAが損傷を受けるとこれらタンパク質が切断端に結合し、DNAの修復を始める。DNA-PK欠損マウスは重症な免疫不全を引き起こすSCID (sever combined immunodeficiency) の表現型を示すことからDNA-PKは免疫系でDNAのV(D)J 組換えに関与していることも示唆されている。しかしながら、DNA-PKの活性化メカニズムやその後の遺伝子発現制御のしくみについてはまったく分かっていない。そこで本研究では、DNA-PKを介したシグナルトランスダクションを明らかにするために、DNA-PK欠損型細胞の遺伝子発現プロファイルを作成し野生型のものと比較を行った。遺伝子発現の様子はゲノムワイドに一度に解析できるマイクロアレイ技術を用いて、ヒトおよびマウスについて解析を行った。また様々な抗がん剤を与えたあとの遺伝子発現変化も解析し、その時のKu70の細胞内での局在を観察した。
材料と方法)ヒトグリオーマ由来の細胞株MO59K (DNA-PK wild type)細胞株と欠損型のMO59J細胞株に抗がん剤を与え、刺激前と刺激後の細胞からRNAを抽出し、ヒトcDNA4000クローンについてマイクロアレイ解析を行った。DNA-PKノックアウト細胞株ではマウスcDNA5000クローンのマイクロアレイ解析を行った。ヒトとマウスのcDNAはGTMASSアレイヤーを用いてメンブレン上にスポットし固定処理を施した。発現プロファイル解析はAIS array visionソフトウェアで行った。またGFP-Ku70を作製し、COS-7細胞にトランスフェクションし、その局在を刺激前と後で観察した。
結果)マイクロアレイ解析の結果、MO59K細胞株だけに発現している遺伝子をいくつかつきとめた。また、抗がん剤で処理をすると明らかにMO59K細胞株だけで発現誘導されている遺伝子も見つかった。現在これら遺伝子についてノーザンブロット解析を行っている。GFP-Ku70は核以外にも細胞質や細胞膜にも局在していた。DNA損傷後のKu70の局在変化を現在解析中である。