光周性花成誘導に関連する時計制御遺伝子の
                
突然変異体の単離による機能解析
                                                         藤原すみれ     指導教官:鎌田博
【目的】         
 多くの植物において、栄養生長から生殖生長への転換は日長によって制御されている。このように日長によって発生や分化が制御される性質を光周性と言い、日長の変化によって花成が誘導されることを光周性花成誘導とい言う。光周性花成誘導には内在性の生物時計が関与していることが示唆されているが、その分子機構はほとんど明らかにされていない。そこで、我々のグループでは、この光周性花成誘導の分子機構を解明することを目的とし、光周性花成誘導時に特異的に発現する遺伝子の単離を進めてきた。短日植物のアサガオ(Pharbitis nil  cv. violet)から単離されたPnC401PnGLP遺伝子は、葉で特異的に発現し、暗期にピークを持つサーカディアン発現変動を示すことから、光周性花成誘導に関与していると考えられている。しかし、その機能については未解明である。そこで、本研究では、分子遺伝学的な解析に適しているシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を材料に用い、PnC401PnGLPのシロイヌナズナのホモログであるAtC401およびAtGLP1AtGLP2T-DNAがタッグされた突然変異体を探索し、表現型の解析によってこれら遺伝子の機能を調査することを目的としている。

【方法】
1.
 T-DNAの挿入された突然変異体の単離
 突然変異体の探索に最もよく使われる手法としては、T-DNAタギング法がある。これは、Agrobacteriumを用いてランダムにT-DNAを挿入させた形質転換体よりDNAを抽出し、このDNAプールの中から、目的遺伝子の内部もしくはその近傍にT-DNAが挿入されたものを、T-DNA上に設計したプライマーと目的遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCR法によってスクリーニングするという手法である。今回は、かずさDNA研究所の所持しているシロイヌナズナのT-DNAタギングラインについてスクリーニングを行った。このタギングラインは、43008サンプルからなり、まずはじめに、96穴プレート4枚分の384サンプルのDNAを合わせたスーパープールを用いて1次スクリーニングを行う。1次スクリーニングでポジティブであったスーパープールの384サンプルの中から目的のサンプルを選抜するため、2次スクリーニングでは、x軸、y軸、z軸方向に三次元的にサンプルを合わせたサブプールのスクリーニングを行い、三つのサブプールで得られるポジティブなシグナルから、目的の1つのDNAの座標を絞り込むことができる。この方法を用いることにより、個々に多量のサンプルをPCRすることもなく、効率よく突然変異体を探し出すことが可能である。また、単離した突然変異体へのT-DNAの挿入位置は、塩基配列を読んで確認した。
2.
 突然変異体の栽培試験
 突然変異体の表現型を確認するために、シロイヌナズナの野生型(Columbia)と突然変異体のT2世代の種子を同時に播種し、栽培試験を行った。栽培条件は、長日条件(16時間明期/8時間暗期、22℃)で、1/2 MS培地に無菌播種し、三週間後に土に植え替えた。T-DNAが挿入された突然変異体は選択マーカーとしてハイグロマイシン耐性を持つため、1/2 MS 培地にハイグロマイシンを添加し、枯死した劣性ホモの個体は取り除いた。抽苔し、花柱が1cmに達した時点でのロゼット葉の枚数の計測によって花成時期の比較を行った。同時に、形態観察も行った。

【結果と考察】 
 スクリーニングの結果、AtC401T-DNAが挿入された突然変異体を一系統得た。T-DNAAtC401N末側のkinase domainに挿入されていることを確認した。また、栽培試験の結果、突然変異体は野生型(Columbia)と比べて花成時期が遅れていたが、形態的な差は見られなかった。この結果から、野生型のAtC401遺伝子は花成に関与しており、花成を促進するような働きを持つことが示唆された。現在調査している突然変異体のT2世代にはホモ個体とヘテロ個体が混在している。今後は、この突然変異についてさらに詳細に調べるため、T3世代でホモ系統を単離し、栽培試験、相補性実験、発現解析などを行う予定である。また、AtGLP1では遺伝子の上流のプロモーターにT-DNAが挿入されている個体を得たので、これについても栽培試験を行う予定である。AtGLP2については突然変異体の候補を得ていないので、引き続きスクリーニングを行っていく予定である。