シスチントランスポーター欠損マウス作製のための

ターゲッティングベクターの構築

指導教官:坂内四郎  提出者:前原香名子

 

【背景】 アミノ酸トランスポーターxc-系は哺乳類細胞において、アミノ酸の一種であるシスチンを細胞内のグルタミン酸との交換輸送によって細胞内に取り込むアミノ酸輸送系である。xc系は酸化ストレスをかけた細胞で発現が増強する。酸化ストレスとは細胞内のレドックス状態が酸化方向に傾く状態のことで、この状態ではDNAや蛋白質などの生体高分子が傷害を受ける可能性が高まる。レドックス状態を正常に維持する、いわゆる生体抗酸化系として代表的なものがグルタチオンで、その合成にはシステインが不可欠である。xc系によって細胞内に取り込まれたシスチンがシステインの主要な供給源となるので、酸化ストレスに曝された細胞ではxc系を増強することによってグルタチオン量を増やして酸化ストレスに対応する。

【目的】 このようなxc系の働きは培養細胞においてはよく研究されているが、個体での働きについては未知の部分が多い。xc系欠損マウスを用いればxc系が働かなくなると個体にどのような影響が現れるかを調べられるため、xc系欠損マウスは個体レベルにおけるxc系の働きの解明につながると期待される。そこで、本研究ではxc系欠損マウスを作製することを目標とし、作製に必要なターゲッティングベクターの構築を試みた。

【方法】 xc系は4F2hcとxCTという2種類のサブユニット蛋白質から構成される。xc系ノックアウトマウス作製では、輸送系の本体と考えられるxCT蛋白質の遺伝子を発現させないことによってxc系が働かないようにする。マウスxCT遺伝子は12のエクソンからなる。予めxCT遺伝子がマウスゲノム中に1コピーしかないことを確認するために、マウスxCT遺伝子のcDNAをプローブとしてゲノミックサザンを行う。ターゲッティングベクターには、既にクローニングしたxCT遺伝子第1、第2エクソンを含むクローンを使用して、xCT遺伝子の5’上流域と3’下流域の配列を入れる。5’上流域としては、第1エクソン中の蛋白質翻訳開始点から上流約2.5kbをクローンから制限酵素NcoIで切り出して使用する。まずこの5’上流域のDNA断片を、発現レポーター遺伝子GFPを含むベクター(7.0 IS GFP in pSVβ)とライゲーションさせる。次の手順に移る前にこのベクターをマウス由来培養細胞NIH3T3にトランスフェクションしてGFPがきちんと発現することを確認しておく。次にこのベクターから〈5’上流域+GFP〉の部分を切り出して最終的なターゲッティングベクター(pLOXNATA 6.0 in pUC18)に組み入れる。3’下流域としては、蛋白質翻訳開始点下流約0.1kb地点から第1イントロンの3’末端までの約4kb下流を、クローンから制限酵素NcoIとBamHIで切り出して使用する。5’上流域+GFP、3’下流域のDNA断片を、ベクターpLOXNATA 6.0 in pUC18に順々に挿入してターゲッティングベクターを完成させる。

【結果】 ゲノミックサザンによりマウスxCT遺伝子はゲノムあたり1コピーであることが明らかとなった。そこで上記の方法でターゲッティングベクターの構築を始めた。xCT遺伝子5’上流域とGFP遺伝子をライゲーションさせたベクターが得られたので、これを用いてトランスフェクションを行いGFPの発現を調べた。この結果GFPの発現が確認され、また酸化ストレスの曝露によってGFPの発現が有意に高まることが示された。現在、3’下流域とベクターpLOXNATA 6.0 in pUC18のライゲーションを試みているところである。この後〈5’上流域+GFP〉のDNA断片を〈3’下流域+pLOXNATA 6.0 in pUC18〉に組み入れてターゲッティングベクターを完成させる予定である。