テトラヒメナのエネルギー代謝を上げるウーロン茶成分の追跡
吉田 さちね 指導教官:宮崎 淳一
<導入・目的>健康への関心が高まり、近年ウーロン茶は、健康飲料として、わが国で幅広い世代に愛飲されている。ウーロン茶が人体に及ぼすさまざまな有効作用のなかで、私はウーロン茶摂取後に呼気中の二酸化炭素量が増加するという現象に注目した。二酸化炭素の大部分は、細胞内のエネルギー代謝系によって排出されることから、ウーロン茶が細胞内のエネルギー代謝系に何らかの影響を及ぼしていると考えた。そこでウーロン茶のエネルギー代謝系に及ぼす生理作用の解明、ウーロン茶の有効成分の同定を目的として以下の2つの実験を行った。モデル細胞には、代謝系の研究が盛んに行われている繊毛虫テトラヒメナを用いた。
(実験1)ウーロン茶がミトコンドリア膜電位に及ぼす影響
(実験2)ウーロン茶がテトラヒメナの遊泳速度に及ぼす影響
<方法・結果>実験に用いたウーロン茶成分は、茶葉から抽出後、乾燥・粉末化したOTE(oolong Tea Extract)、OTEの水抽出分画であるOHF1、エタノール抽出分画であるOHF2、そしてOHF1をさらに高速液体クロマトグラフィーで逆層カラムを用いて分画したOHF3、OHF4、OHF5、OHF6の合計7種類である。コントロールとして、ウーロン茶成分の溶媒であるジメチルスルフォキシド(DMSO)を用いた。
(実験1)ミトコンドリア膜電位に及ぼすウーロン茶成分の影響をみるため、膜電位依存的にミトコンドリアを染色するRhodamine123を用いて、テトラヒメナのミトコンドリアを標識し、蛍光光度定量機器を用いて、蛍光量を定量化した。その結果、予備的なデータではあるが、OHF2、OHF5を加えた細胞の蛍光量がそれぞれコントロールの約8.8倍、約11倍になった。
(実験2)ウーロン茶がテトラヒメナの遊泳速度に及ぼす影響をみるため、暗視野顕微鏡を用いて、軌跡写真を撮り、NIHイメージソフトウエアを使って単位時間当たりの遊泳距離を測定した。その結果、コントロールに比べOTE、OHF2、OHF5を加えた細胞の遊泳測度が増加した。
<考察>エタノール抽出分画OHF2と水抽出分画OHF5は、細胞の遊泳速度、ミトコンドリア膜電位の両方を増加させたことから、この2つの分画にエネルギー代謝系に関わる生理活性物質が存在する可能性が高いことが判った。本研究から、ミトコンドリア膜電位の上昇によってF1ATPアーゼ活性が上がり、ATP産生量が増加して、その結果遊泳速度が上昇するという仮説を立てた。今後は、この仮説を検証するためにOHF2とOHF5が及ぼすATP産生量への影響を調べ、ウーロン茶が持つ新たな生理作用の実体を解明し、生理活性物質の同定を試みていきたい。