枯草菌主要タンパク質分泌経路、Ffh-SecAカスケードにおけるFtsYの機能解析

     

和田 計也*8 指導教官:中村幸治 責任教官:山根國男

目的
タンパク質は細胞内で合成された後、機能すべき部位に運ばれることにより正常な機能を発揮できる。 分泌タンパク質はN末にシグナル配列があり正しい場所へ輸送される仕組みになっている。真核生物では SRP*3 というRNAとタンパク質の複合体がこのシグナルを認識し、ER上のSRPレセプターまで 運びタンパク質を分泌させる。一方、原核生物では大腸菌などにおける研究によりタンパク質の分泌は Sec*4 と 呼ばれる一群のタンパク質因子がこの機構に関与するモデルが提唱されている。それによると分泌されるタン パク質にSecBが結合し、そして膜上のSecAまで運ぶ。その後SecY/Eに渡されて菌体外へタンパク質が分泌さ れる。このように真核生物ではSRP系、原核生物ではSec系がタンパク質の分泌をしているのだと思われていた が、大腸菌でSRPの骨格である7SL RNAと相同な4.5S RNAが発見され、またタンパク質因子の一つである P54*5 と いうタンパク質の相同因子であるFfh*6 、さらにSRPレセプターの相同因子FtsY*7 も発見されたことから、原核生物 でも真核生物のようなSRP系の分泌経路が存在すると認識されてきている。SRP因子とSec因子の分泌系における 機能解析の結果、原核生物において両者は相互作用して機能していることが明らかになってきた。しかし、SRP のレセプターであるFtsYがどのように機能しているかについては不明のままであった。そこで私はSRP-Sec系 におけるFtsYの機能解析を行うため、分泌経路におけるFfh及びSecAに対するFtsYのコンプレックス形成能に ついて解析を行った。

方法
枯草菌のftsY遺伝子のC末端側に hisタグ*1を組み換えによって導入した。hisタグはNi-NTAに特異的に結合する。 つまり、hisタグを組み込んだ菌体を破壊してNi-NTA*2 を加え遠心すればhisタグをもっているFtsYタンパクが沈殿する。 この時、FtsYと共に沈殿してくるタンパク質を回収し、その中にFfhやSecAが検出されるかどうかを解析した。

結果
作成した株について、サザン法やウェスタン法で解析し、hisタグがftsY遺伝子の3’末端に組み込まれている ことを確認した。今後はこの作成した変異体を用いてin vivoでFtsYがFfh、SecAとどう相互作用しているかを研究 していく。また、in vitroでもこれらのタンパクの相互作用を調べ、FtsYの機能を明らかにしたい。

*1 ヒスチジンというアミノ酸
が6個並んだ配列

*2 Q社が販売しているもので、hisタグと
特異的に結合する。しかも重いから
遠心 すれば下に沈む。

*3 Signal Recognition Particle:シグナル認識粒子
300塩基のRNAと6個のたんぱく質から成る。

*4 Secretory:分泌の
SecA、SecB、SecE、SecG、SecYなどがある。
Bが分子シャペロン、AがBのレセプター、
Y/E/Gは膜たんぱくでたんぱくを分泌させるために
穴があいている

*5 真核生物のSRPの中で、実際に分泌たんぱく
と結合しているたんぱく質

*6 Fifty Four Homolog

*7 実際にはSRPレセプターαの相同因子

*8





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