高濃度ヨウ素環境における微細藻類の増殖応答 |
背景・目的 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
近年オゾン層の破壊にヨウ素化合物が関与していることが明らかになり、 地球規模でのヨウ素循環が注目されてきている。加えて、ヨウ素は工業産業 での用途も多様であり、その排水などによる環境中への放出は、高濃度のヨ ウ素環境をもたらしている。海洋中ヨウ素の動態には生物(微生物や海藻類 )が大きく関与していると考えられてはいるが、その詳細な証明はまだ少な い。また、それらの研究でも、微細藻類が対象となっている例もあまり見ら れない。そこで本研究では、微細藻類とヨウ素の関係に対する基礎的知見を 得るために、高濃度ヨウ素環境中における微細藻類の影響の有無を増殖応答 の点から観察した。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
方法 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
当研究室の所有する微細藻(下表参照)を対象とし、生育培地にヨウ素を 添加し培養した。初めに1 mMになるようにKIO3あるいはKIを添加し、その 増殖変動を濁度変化で観察した。この時、無添加培地のものと比較し、 増殖に差が見られたものに関して濃度をより高濃度もしくは低濃度に変化させた。 また、円石藻Emiliania huxleyiに関しては、細胞数・クロロフィル量の点からも 増殖変化を観察し、それに加えて放射化分析によるヨウ素の細胞内蓄積を測定した。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
結果・考察 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1 mM KIO3もしくはKI添加による微細藻類の増殖変化を下表に示した。
1mM KIを添加した場合、対象とした種の増殖は、ヨウ素の影響のないもの
(下表;"0"表記のもの)と阻害効果を示すもの("−"表記)とに分かれた。
1 mM KIO3添加条件では、珪藻Cheatocerosは生育が抑制された。
ヨウ素は、イネなどの陸上植物では成長阻害作用を示す報告例がある。しかし、
1mM KIO3を培地に添加した場合、幾つかの種で定常増殖期において
ヨウ素無添加の細胞と比べて細胞の増殖促進が見いだされた(下図参照)。
そこで、特に細胞増殖促進が顕著であった円石藻Emilianiaに注目し、
ヨウ素の増殖に対する影響を詳細に調べた。EmilianiaではOD750、
細胞数及びクロロフィル量でも同様な成長促進が見られ、阻害効果は認められなかった。
さらに、Emilianiaでは、約20mMまでKIO3濃度を上げても成長促進が見られた。
また、円石藻Gephyrocapsaでも、OD750による増殖促進が確認された。
一方、ハプト藻Isochrysisではこのような成長促進が見られず、
EmilianiaとIsochrysisの系統関係が近縁であることとあわせて
ヨウ素による成長促進と円石形成能の有無との何らかの関連が推測された。 また、細胞内へのヨウ素取り込みを放射化分析を用いて測定した。 Emilianiaでは、ヨウ素添加(+1 mM KIO3 or KI)培地とヨウ素無添加培地で 培養した場合を比較すると、前者の細胞に多量のヨウ素が取り込まれていた。 それは無添加培地に比べ、KIO3添加培地培養で約650倍、KI添加培地培養では 約2,800倍に至ることがわかった。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
![]() 黒:無添加培養のGrowth 赤:ヨウ素添加培養時のGrowth |
表. 1mM KIO3とKI添加培養時の無添加培地培養に対する成長比較
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