つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 107     (C) 2003 筑波大学生物学類

海底熱水系から得られたウイルスの精製

岩山 幸弘 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:桑原 朋彦 (筑波大学 生物科学系)




導入:

当研究室が水曜海山の海底熱水系から得たThermococcus sp. TS1は超好熱性Archaea1種であり、16S rDNA配列からT.stetteriT. kodakaraensisに近縁であることがわかっている。TS1は、他のThermococcusとは異なり、培養液中のほとんどの細胞が成長末期には、球菌から細胞内が透けて見える透明菌に変化する(1)。透明菌体内には、DNA染色性のケイ光試薬で染色される、菌体直径の1/6から1/5のサイズのスポットが形成される(1)。本研究では、電子顕微鏡観察結果から、透明菌体内のスポットはウイルスであると考え、このウイルスの精製を試みた。


材料及び方法

スポットは透明菌体外に出てもケイ光顕微鏡で観察が可能であった。本研究ではこれをtwinklerと名づけ、精製した。TS1Thermococcus mediumを用いて培養(120 ml 90℃、14時間)して透明菌リッチな培養液を得た。培養液を超音波処理後、遠心(10,000 rpm4 ℃、10)し、その上清を超遠心(30,000 rpm4℃、60)し、沈殿としてtwinklerを集めた。twinkler1 ml10 mM Tris-HCl(pH 7.5)/10 mM MgSO4/3.0%(w/v)NaClsuspendし、DNase I及びRNase Aで処理した(各々20 mg/ml60分、37 )。これに1 mlのクロロホルムを加え2層分配の上層を採取した。新しい10 mM Tris-HCl(pH 7.5)/10 mMMgSO4/3.0%(w/v) NaClを中間層に加えて再度2層分配を行い、上層を採取して前の上層に加えた。これをStarting Material (SM)とし、ショ糖密度勾配遠心(10 mM Tris-HCl(pH 7.5)/10 mM MgSO4/3.0%(w/v) NaCl中、各2 ml40302010 sucrose(w/v)15,000 rpm45)にかけた。得られたfraction10 mM Tris-HCl(pH 7.5)/10 mM MgSO4/3.0%(w/v) NaClで希釈後、超遠心で沈殿させ、再度、ショ糖密度勾配遠心にかけて精製した。


結果及び考察:

電子顕微鏡観察では、スポットは直径約50 nmdense particleのクラスターとして認められた。また、菌体内は、
dense particle
以外はほとんど空白であることから、透明菌は死菌であることが示唆された。更に、培養過程にいて培養液中のATP濃度を測定すると、ATP量の推移は球菌の成長曲線とほぼ一致した。一方、透明菌が増加すると球菌及びATP量は共に減少した(2)。この結果は、透明菌が死菌であることを支持する。

ショ糖密度勾配遠心後、各層の界面及び沈殿直上に注射器を突き刺し、それぞれ1 mlfractionを回収した(3 a)。ケイ光顕微鏡観察では10/20%、 20/30%30/40%、および沈殿直上画分に、下方ほど大きなtwinklerが観察された。位相差顕微鏡観察ではtwinklerは黒色のチラチラするものとして認識された。各twinkler画分とも同様の吸収スペクトルを示した(3 b)。これらの結果は、ショ糖密度勾配遠心ではtwinklerdense particleのクラスターの大きさによって分離されていることを示唆する。

twinkler含有画分のSDS-PAGEでは、いずれも70 kDaから30 kDa10本のバンドが観察された。これらのうち、いくつかあるいは全てがウイルスの構成要素であると思われる。これらの事実から,ウィルスはほぼ精製されたと考えられる。しかし、アガロースゲル電気泳動では、使用した条件下では、核酸のバンドは検出できなかった。今後は、ウイルスゲノムを構成する核酸バンドの検出を目標とする。ウイルス粒子の抗体を作成し、同様なdense particleのクラスター(ウイルス様粒子)が観察されているCyptomonas(真核藻類の一種)のヌクレオモルフ(共生核)との反応性を見る。また、環境中の水圏ではsherialなウイルス様粒子がgeneralized transductionに関与しているとの報告があることから、TS1から大腸菌への遺伝子伝達を試みる。