つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 100     (C) 2003 筑波大学生物学類

エゴツルクビオトシブミの揺籃形成と寄主植物の関係

青山 彩子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:斎藤 隆史 (筑波大学 生物科学系)


 

導入・目的

 エゴツルクビオトシブミCycnotrachelus roelofsi Harold)は鞘翅目オトシブミ科に属し、光沢のある黒色をした、体長5-8oの小型種である。日本全国に分布し、出現時期は5-8月で、一般に年ニ化性である。また、エゴノキ属のエゴノキとハクウンボクに寄主特異性をもつ。産卵時には、雌成虫が寄主の葉を先端から巻き始め、途中で産卵し、再び巻き上げて樽型の揺籃を造る。幼虫は揺籃の中で蛹化・羽化し、揺籃に穴をあけて外へ出る。

 今までも揺籃形成過程や揺籃構造の研究は行われてきたが、本研究では揺籃を形成するにあたっての、エゴツルクビオトシブミの寄主に対する選好性を調査することを目的とした。

方法

       揺籃形成調査

-6月にかけ、3地点においてエゴノキに造られた揺籃を観察した。その際、揺籃が造られていた葉の位置(形成時点で枝先から何番目にあるか)および枝の高さを観察、記録した。

       羽化実験

-6月にかけ、記録した揺籃のうち損傷・消失したもの以外のすべてに個別に網をかけた。羽化個体を記録し、羽化個体の見られなかった揺籃については、後日回収し、内部を観察、記録した。

       産卵実験

6月に、同環境のエゴノキにかけた網内に雌雄1ペアずつを放逐し、その後の行動を観察、記録した。

 

結果・考察

       揺籃形成

 揺籃はすべて枝先から1-6番目の葉で造られており、葉の位置別に分類すると、1番目:15.7%、2番目:33.3%、3番目:31.5%、4番目:13.0%、5番目:5.1%、6番目:1.4%(全揺籃数n=216)となった。枝先にある葉ほど新しく柔らかいため、エゴツルクビオトシブミの雌成虫は柔らかい葉を選んで揺籃を造っていると考えられる。また、枝の先端にある1番目の葉は小さい場合が多いため、大きさの点で適当でないと推測できる。

枝の高さ別に見ると、135-165p:32.9%、165-195p:36.1%など人の背丈前後の高さに集中して揺籃が造られていた。発見しやすいというバイアスが多少かかっている可能性はあるが、それを考慮してもこの範囲に造られた数が多くなっていた。これは、上方は鳥、下方はクモやアリなどの捕食者から攻撃を受けやすいために避けているという理由が考えられるが、実際に捕食行動を観察することはできなかったため不明確である。

       羽化・寄生

 羽化率は32.4%、寄生率は62.8%であった。主な寄生者としては、寄生蜂を観察した。枝の高さ別に見ると、135-165p:69.2%、165-195p:68.0%など人の背丈前後の高さにおいて平均より高い寄生率を示した。これは、寄生者の飛行能力に関連する枝の高さの影響、あるいは揺籃の密度が高い場所において寄主の探索が容易であるなどの影響が考えられる。

       産卵

 放逐したペアのうち、産卵せず越冬あるいは死亡するものがほとんどであった。そのため、1雌当たりの生涯揺籃形成数を正確に調べることは不可能だった。2000年に同地で行われた実験においてもほぼ同様の結果が出ているため、本種が同地において二化性を示すかどうかの確認が必要である。