つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 87     (C) 2003 筑波大学生物学類

ミトコンドリアによる筋線維タイピング―持久性運動の伴う変化―

池田 真一 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:宮崎 淳一 (筑波大学 生物科学系)


 

 骨格筋線維はその特性により、速筋線維(Type II線維)と遅筋線維(Type I線維)に分類でき、Type II線維は、さらに比較的遅筋的な性質に近いType IIAType IIBのサブタイプに分けられる。このタイピングの基準となっているのは通常myosin heavy chain(以下MHC)成分であり、MHC Iのみを含む線維をType I線維、MHC IIaのみを含む線維をType IIA線維、MHC IIbのみを含む線維をType IIB線維としている。

 骨格筋が運動を継続するためにはATPが必要であるが、もともと筋中にあるATPの量はわずかであるため、運動を継続しながらATPを合成し続けなければならない。骨格筋においてはその多くの部分をミトコンドリア(以下Mt)が行っている。筋線維タイプ別のMt容量は、遅筋線維であるType I線維で多く、速筋線維であるType IIB線維では少なく、Type IIA線維は両者の中間である。

 持久性運動によって骨格筋では「遅筋化」という適応が起こる。筋線維タイプあるいはMHC成分は速筋型から遅筋型へと変化する。具体的には遅筋(Type I)線維の増加や遅筋型のMHC Iを含むハイブリットファイバーの著しい増加が起こり、筋線維の特性はType IIBMHC IIb)→Type IIAMHC IIa)→Type IMHC I)の方向へとシフトする。Mtでは、容量の増加や酸化的リン酸化能の向上などが起こることが知られている。

 一般的に筋線維のタイプを分類するのにはMHC成分が用いられているが、Mtも筋線維タイプにより局在が異なり、遅筋線維に多く、持久性運動による適応も同じように起こると言われている。しかし、実際にマウスの足底筋を調べてみるとMHC IMtの局在が必ずしも一致しないことがわかった。これは、「持久性運動によってMaster geneが働き、これにより遅筋化に関する全てのgeneONにする」という今まで信じられていた考えに疑問を投げかける事実である。そこで、持久性運動による遅筋化の過程におけるMHCMt(タンパク質)の発現制御機構を探る第一段階として、持久性運動モデルを使って、MHCMtの適応変化の様子を観察した。

 マウス用に1日24時間、運動をモニタリングできるランニングホイールを製作し、それを使って自発的持久性運動を14週間おこなわせた、ランニング群15匹と、コントロール群6匹のヒラメ筋、足底筋、前脛骨筋を摘出し、SDS-PAGEによりMHC成分の定量をそれぞれの筋肉で行った。また、ミクロトームを用いて10μmのシリアル切片を作成し、免疫組織染色法を用いてMHCMtの局在を観察した。