つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 82     (C) 2003 筑波大学生物学類

ゾウリムシのCa2+チャネル機能不全変異体(cnrB)原因遺伝子の探索

石渡 清午 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:高橋 三保子 (筑波大学 生物科学系)


Introduction

淡水性の単細胞生物であるゾウリムシ(Paramecium caudatum)は表層に約1万本の繊毛をもち、繊毛打の方向と頻度を変化させることによって遊泳パターンを変化させている。ゾウリムシの細胞先端が障害物に触れると、繊毛打の向きを逆転させること(繊毛逆転)によって、後退遊泳を行い、障害物を回避すること(回避反応)が知られている。この回避反応は繊毛膜上の電位依存性Ca²⁺チャネルの活性化に伴い、繊毛内Ca²⁺濃度が上昇することが引き金となっている。ゾウリムシではこのCa²⁺チャネルの機能に欠陥をもつため、繊毛逆転のできない突然変異体CNR(caudatum non-reversal)が4種類(cnrA、cnrB、cnrC、cnrD)単離されている。

ゾウリムシでは野生株の大核から抽出・精製したゲノムDNAを突然変異株の大核に注入すると、注入したゲノムDNAの中に含まれる遺伝子が発現し、突然変異株の変異形質が治癒されることが知られている。これまでの研究から、制限酵素BamHTで切断した野生型ゲノムDNA断片がcnrBの変異形質を治癒させることが明らかにされている。このことはcnrBの原因遺伝子はBamHTサイトをもたないこと示している。今回私はこの結果の再現性を得ること、そしてその結果を利用してcnrBの原因遺伝子の単離・同定を行うことを目指した。

 

MaterialsMethods

野生型ゲノムDNAのBamHT断片の分画 野生型の株を大量培養し、細胞に含まれる全ゲノムDNAを抽出・精製した。そして、この野生型全ゲノムDNAを制限酵素BamHTで切断した。これを1.2%アガロースゲル電気泳動により、2.0kb以下(画分T)2.0〜4.3kb(画分U)、4.3〜9.4kb(画分V)、9.4kb以上(画分W)の4つに分画した。

マイクロインジェクション レシピエントとなるcnrB の細胞を5%エタノールを含む生理溶液Dryl’s solution(DS)で脱繊毛処理をした後、0.02%メチルセルロースを含むDSで不動化し、スライドガラス上のミネラルオイルの油滴の中に閉じ込めた。その後、顕微鏡下で細いガラス針を用いて、cnrB細胞の大核内に野生型ゲノムDNAの断片を注入した。

cnrB変異形質治癒のテスト マイクロインジェクションしたcnrB細胞を、後退遊泳を引き起こさせる刺激溶液(20mMKClを含むDS)に移し、後退遊泳の時間を測定した。

 

Results

これまでの研究によって明らかにされた結果の再現性を得るために、野生型ゲノムDNABamHTで処理したゲノムDNA断片にcnrB変異形質を治癒する活性があるかどうか確かめた。その結果、cnrB変異形質が治癒された個体を数クローン得ることができた。

次に、BamHTで処理したゲノムDNA断片をアガロースゲル電気泳動によって4つの画分(〜2.0kb、2.0〜4.3kb、4.3〜9.4kb、9.4kb〜)に分け、各画分からDNAを抽出した。電気泳動により各画分のDNAサイズを比較したところ4つの画分とも効率よく分画されていることが確認された。現在、各画分についてcnrB治癒活性の有無を検討中である。

 

今後の展開

 cnrBの変異形質を治癒する有効画分をpUC118ベクターに組み込み、これを大腸菌(DH5α)に導入してサブゲノミックライブラリーを調製する。このライブラリーのコロニーをスクリーニングしてcnrBの原因遺伝子の単離・同定を試みる。