つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 104     (C) 2003 筑波大学生物学類

インゲンゾウムシ(Acanthoscelides obtectus)におけるpioneerとfollowerの関係

大塚 康徳 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:藤井 宏一 (筑波大学 生物科学系)


はじめに

 マメゾウムシ(Bruchidae)の多くの種は卵を豆の表面に塗り固めるように産卵 する。そのため卵から孵化した幼虫はそのまま豆の内部に侵入する。しかし、マ メゾウムシの一種であるインゲンゾウムシ (Acanthoscelides obtectus)の雌は豆の表面や周囲にまき散らすように産卵する。そのため 卵から孵化したインゲンゾウムシの幼虫は豆を求めて歩く必要がある。豆に たどり着いた幼虫は豆の表面に侵入孔と呼ばれる小さな穴を開けて豆に侵入する が、羽化してくる幼虫の数は侵入孔の数を上回っていることが多い。これは 一匹の幼虫が豆に侵入孔を開けて侵入すると、後から何匹もの幼虫がその穴を利 用して豆に侵入するためである。最初に侵入孔を開けて侵入する幼虫はパイオニ ア(pioneer)、パイオニアが開けた侵入孔を利用して後から豆に侵入する幼虫は フォロアー(follower)と呼ばれる。フォロアーは自ら侵入孔を開けて豆に侵入 しないため、パイオニアよりもエネルギー消費が少ないと考えられる。そのため、 パイオニアよりもフォロアーの方が有利とも考えられるが、パイオニアに対して フォロアーの数が増えすぎてしまうと、侵入孔の数が不足してしまい、結果とし て羽化してくる成虫の数が減少してしまうことも予想される。パイオニアとフォ ロアーの最適な割合とはどのような割合なのだろうか。本研究では実験室で飼育 しているインゲンゾウムシの個体群全体でのパイオニアとフォロアーの割合 がどの ような値になっているか。そして、雌個体間で産卵する幼虫タイプの割 合に差が存在するのかについて調べることを目的としている。

実験方法

 実験個体群のパイオニアとフォロアーの割合を調べるために、卵密度を変化さ せて数日後に孵化卵数、幼虫死体数、そして侵入孔の数を数えた。雌個体間で産 卵する幼虫タイプの割合に差が存在するのか調べるために豆1個に対して卵を1 卵ずつにしてすべての卵の孵化までの日数を記録し、豆への侵入の有無を調べた。

結果と考察

 孵化卵数に対するパイオニアの割合は卵密度が高くなるにつれて小さくなり 侵入孔はせいぜい2どまりであった。このことより、本来はパイオニアの能力を 持っている幼虫も侵入孔があればフォロアーとして豆に侵入していると考えられ る。また、豆1個に対して1卵ずつ、そして卵密度が低い場合に多く見られた幼 虫の死体が卵密度が高くなるにつれて減少していったことから、パイオニアとフォ ロアーという二つのタイプが遺伝的なものである可能性が高いと考えられる。雌 個体間にはパイオニアの割合が大きい個体と小さい個体がおり、産卵数などと関 連づけて今後さらに考察していきたい。