つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 56     (C) 2003 筑波大学生物学類

マイクロダイアリシスを用いた脳内の細胞外セロトニンの動態〜自閉症ラットを用いて

笠羽 恭宏 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:岡戸 信男 (筑波大学 基礎医学系)


【序論】

 自閉症は、社会的相互関係の障害、コミュニケーション能力の障害、反復常同的あるいは執着行動、という3つの行動学的特長から診断される神経発達障害である(Filipek et al. 1999)。自閉症の病態はいまだ不明な点が多く、その詳細な病態解明には動物モデルの確立が望まれていた。我々の研究室では、自閉症の病態を再現する自閉症モデルラットを、ヒトで妊娠初期に母体が内服すると子に自閉症を高率に発症する二種の薬剤、サリドマイドとバルプロ酸ナトリウムを投与することにより、作製した。生後35,50日の本ラットでは、血中セロトニン値の上昇及び、海馬におけるセロトニン値の上昇、そして前頭前野におけるドーパミン値の上昇といったモノアミン系の異常を呈しており、これらの一部はヒト自閉症患者の臨床症状を再現していた。さらに、このようなモノアミン動態の変化はラット胎生9日目の薬剤暴露群でのみ見られることを報告した。

 

 マイクロダイアリシス法(Maicrodialysis)は細胞外液中の物質動態をモニタリングする方法として、神経科学領域において広く用いられている。マイクロダイアリシス法は、1972年Delgadoらによって開発された。その後、probeの小型化などの改良が加えられ、現在のマイクロダイアリシス法に至った(Benveniste et al. 1990)。細胞間隙中の生体内物質は透析膜を介したプローブ内外の濃度勾配にしたがって回収される。

 

 

【目的】

 本研究室で作成された自閉症モデルラットは、モノアミンの動態異常が観測されたものの、脳を摘出し分画後測定といった系を踏襲しており、in vivoにおいての細胞外モノアミン動態は今だ不明である。生体において細胞外モノアミン量はシナプス間で作用する量と言え、その動態は重要である。そこで本研究ではマイクロダイアリシスを用い、それを測定することを目的とする。

 

 

【方法】

1.     本研究室で確立された常法に従い、2種類の自閉症モデルラットを作成する。

2.     コントロール群、自閉症モデル群、それぞれにプローブ埋め込み手術を行う。

3.     3日後、灌流液を流速2μl/minで流し、モノアミンを回収する。

4.     HPLCにより、測定する。

5.   (系が確立すれば、ヒト自閉症で試されている様々な薬剤について検討したい。)