つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 109     (C) 2003 筑波大学生物学類

プロスタグランジンF2αによる破骨細胞分化制御機構の解析

加門 正義 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:坂本 和一 (筑波大学 生物科学系)


◎導入・目的

 プロスタグランジンは、生体内局所ホルモンの一つで生体内の様々な組織で産生され、多種多様な生理作用を引き起こす。その中の一つのプロスタグランジンF 2α (PGF 2α)は、特異的受容体であるFPに作用することにより子宮筋収縮や黄体退縮、骨代謝などに関わっている。FPは七回膜貫通型の受容体であるが、最近、PGF 2α受容体調節タンパク質(FPRP)が発見され、FPに相互作用してPGF 2αの作用を調節していることが明らかにされた。

 一方、骨は破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成を繰り返し、常に代謝されて新しい骨基質に置き換えられている。破骨細胞は造血幹細胞に由来し、そこから分化した破骨細胞前駆細胞は、破骨細胞分化誘導因子(RANKL) の作用により多核化して破骨細胞へと分化する。RANKLは骨組織の骨芽細胞から産生され、RANKL受容体を有する破骨細胞前駆細胞との細胞間相互作用により、破骨細胞の分化形成を誘導すると考えられている。

 既に当研究室では、PGF 2αが破骨細胞の細胞接着性に関わることを明らかにしていることから、PGE 2 ばかりでなくPGF 2αも破骨細胞の分化に重要な役割を演じていることが示唆されている。そこで本研究は、破骨細胞の分化に対するPGF 2αの生理作用とその作用メカニズムを明らかにすることを目的とした。

◎方法

 マウスマクロファージ由来のRAW264細胞は、破骨細胞分化誘導因子であるRANKLを加えると破骨細胞に分化することが知られている。そこで、まずRANKL発現プラスミドPGX-2TK-RANKLを大腸菌JM109に導入し、IPTG (Isopropyl-β-D- ThioGalactopyranoside)による発現誘導を行い、GST融合RANKLをGlutathion Sepharose4Bを用いて精製した。更に、破骨細胞への分化を誘導するために、精製したRANKL(50、100、150、200ng/ml)を含むα-MEM培地(10%FBS、1%NEAA)を用い、RAW264細胞を48-well plate上に2.5×103 、5×103 、1×104 cells/wellの密度でまいて培養を行った。培養3日後に各濃度のRANKLを含む培地を交換し、5日後に4%パラホルムアルデヒドで固定して酒石酸耐性酸性ホスファターゼ染色(TRAP染色)を行った。また、RAW264細胞をRANKL(0または100ng/ml)を含む培地でそれぞれ6cm dish上で培養し、破骨細胞への分化前(1日後)または分化後(5日後)に細胞を回収してRNAを抽出し、RT-PCRを行って内部標準とするG3PDHのmRNAの発現を調べた。

◎結果・考察

 GST融合タンパク質として1μg/μl のRANKLが精製できた。精製したRANKLをRAW264細胞に加えると、どの濃度でも破骨細胞の分化が観察されたが(1well当たり10~100個)、RANKL150ng/ml、細胞密度5×103 cells/wellの場合に、破骨細胞が最も多く観察された(図参照)。細胞密度が5×103cells/well以上の場合は細胞が多すぎるために分化した割合が低く、また、RANKL濃度150ng/ml以上の場合はそれ以上の破骨細胞の数の増加は認められなかった。また、RT-PCR実験により内部標準となるG3PDHを検出できたが、現在、更にFPやFPRP及びFPRPに相互作用するCD9mRNAの発現を調べているところである。今後、PGF 2αの作用による破骨細胞の形態的変化と各mRNAの発現の変化との関連を調べる予定である。