つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 115     (C) 2003 筑波大学生物学類

テトラヒメナクエン酸合成酵素の脱リン酸化酵素の探索

久徳 ゆかり(筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 沼田  治 (筑波大学 生物科学系)


【目的】
   テトラヒメナクエン酸合成酵素は、レンズの構造蛋白質であるクリスタリンと同様に多機能蛋白質であることが知られている。この蛋白質はミトコンドリアではクエン酸合成酵素として働いている一方、細胞質では直径14nmの繊維を形成して口部装置の形態形成や、接合時の配偶核の交換や受精核形成に働いている。このクエン酸合成酵素の多機能性はリン酸化脱リン酸化によって調節されていることが当研究室の小島らによって明らかにされた。充分リン酸化された蛋白質はクエン酸合成酵素活性を持つが14nm繊維形成能は持たない。一方、一部リン酸化された蛋白質は14nm繊維形成能を持つが、クエン酸合成酵素活性は持たない。 本研究では、クエン酸合成酵素のリン酸化脱リン酸化による多機能性発現を制御しているキナーゼやフォスファターゼの同定を目的とする。

【方法】
   最初にテトラヒメナクエン酸合成酵素遺伝子を大腸菌で発現させて、リコンビナント蛋白質を大量に調製する。先行研究ではリコンビナント蛋白質はクエン酸合成酵素活性を持つが、14nm繊維形成能は持たないことが分かっている。そこでリコンビナント蛋白質を二次元電気泳動で解析し、どのようなアイソフォームを含んでいるかを明らかにする。3種類のアイソフォームの等電点は7.7、8.0、8.4であり、7.7、8.0、のアイソフォームは酵素活性を持ち、8.4のアイソフォームは酵素活性を持たない。等電点8.4アイソフォームは14nm繊維形成に必要である。リコンビナント蛋白質のアイソフォームの同定をした後、リコンビナント蛋白質を基質として、これをリン酸化脱リン酸化する酵素をテトラヒメナの細胞抽出物を用いて探索する。

【結果】
   十分量のリコンビナントクエン酸合成酵素を発現させるために以下の点について改善を行った。
@ IPTGによる発現誘導を確実に行うために、1%グルコースを加えた培地を用いて大腸菌の培養を行った。 
A リコンビナントクエン酸合成酵素の分解を防ぐため、リコンビナント蛋白質を結合したニッケルアガロースビーズの洗浄条件を30mMイミダゾールから50mMイミダゾールに変更した。
   以上の改善によって、十分量のリコンビナントクエン酸合成酵素の調製に成功した。次に、リコンビナントクエン酸合成酵素のアイソフォームの構成を検討するために二次元電気泳動を行った。現在、二次元電気泳動による解析は進行中である。
   リコンビナントクエン酸合成酵素は酵素活性を持ち、14nm繊維形成能がないことから、等電点8.0と7.7のアイソフォームを含むことが予想される。また、このリコンビナントクエン酸合成酵素にテトラヒメナの細胞質をモノQカラムで部分精製した分画を加えると14nm繊維形成能を獲得するので、この分画中にはリン酸化されたアイソフォーム8.0、7.7を脱リン酸化し、繊維形成に必要な等電点8.4のアイソフォームを形成する脱リン酸化酵素の存在が予想される。実際にモノQカラムで精製した分画に脱リン酸化酵素があるかどうかを、アイソフォーム8.4の出現をマーカーとして二次元電気泳動によって検討したいと考えている。